「ゲームセット!!
ウォンバイ宍戸 6-0!!」
コートにゲーム終了を知らせる声と勝者への大きな歓声が聞こえる。
「滝は正レギュラーから外せ。代わりに準レギュラーの日吉を入れる」
榊監督が部員に告げる
萩之介が負けた。試合は萩之介が押されっぱなしで、まさかとは思ってたけど宍戸から1点も取れなかった。…こんな時マネージャーとして、彼女として掛ける言葉が見つからない。
萩之介がこっちに戻って来る。タオルとドリンクを渡して「お疲れ様」と言ったけど、萩之介は私の隣に座って下を向いたまま何も返して来ない。長い髪のせいで表情はよく分からない。
遠くで宍戸が監督に何か叫んでいる。でも私達にはそんなもの聞こえない。
私と萩之介の間に沈黙がはしる。
何て声をかけよう。頑張ってたよ?…これじゃあ慰めになっちゃう。惜しかったね?…全然惜しくなかったじゃない。
彼女のくせにこんな時に何も言ってあげられないなんて……悔しい。自分の不甲斐なさを痛感して泣きそうになった。すると萩之介がこてん、と頭を私の肩に預けてきた。
「萩之介…?」
名前を呼ぶと、すんっと鼻をすする音が聞こえた。…泣いてる?
「負けちゃったよ」
萩之介が小さな声で言った。
「うん…」
「俺、負けちゃったよ。…もうレギュラーじゃないんだな。」
「準レギュラーだよ。」
「そうだけど違うよ。試合が出来なきゃ意味がないんだ…!!レギュラーじゃない俺なんて…」
「萩之介は萩之介だよ、」
私がそう言うと萩之介は肩から顔を上げて膝の上でぎゅって拳を握りしめた。
「でも、もう試合には出られないんだ。レギュラーにも戻れない、周りの目だって変わる。」
体を少しだけ私の方に向けた。
「…そんな俺、必要ないだろ?」
萩之介は今までで一番小さい声でそう言った。
「…そんな事ない、何言ってるの!?」
負けて落ち込んでる相手に怒鳴るのはどうかと思ったが今はそれよりも怒りの方が強い。
「萩之介は必要だよ!皆がそうじゃなくたって私には必要。お願いだから、そんな風に言わないで…」
怒っていたはずなのに泣いてしまった。きっと萩之介はびっくりしてるだろう。そう思っていたらふわっと抱きしめられた。
「俺の方が泣きたいのに何で泣いちゃうんだよ」
「ごめっ…」
「俺こそごめん。レギュラーじゃなくなったら君に捨てられちゃうんじゃないかって不安になって。」
「捨て、ないよ…」
「そう。良かった…」
「レギュラーじゃないからって、萩之介は弱くないよ。私にとって萩之介は一番強いから」
抱きしめられて顔は見えないけど、私がそう言った後に萩之介が笑った気がした。
目立たない貴方に提出