たぶん、舞い上がっていたというロビンさんの言葉は嘘じゃないんだと思う。
 なんて大胆で自信に満ちた人なんだろうというのが、最初に声をかけられて抱いた第一印象。
 まあこれだけの美人だし、さぞかしちやほや可愛がられて育ってきたんだろうと考えたら、自然なことだと納得できた。
 けれど、今私の目の前にいるこの人は、その印象とは真逆と言ってもいいくらいあまりにも謙虚で、なんだか調子狂うなと思った。
 家に着いて、とりあえずお腹空いてるんじゃないかなってことで、残り物だけどカレーをよそってあげた。
 一度は悪いからと遠慮したけど、もう鍋空けちゃいたいからと言うと、今度は「ありがとう」って微笑んだ。
 背筋をぴんと伸ばし、正座を崩さないまま私の作ったカレーを食べているロビンさん。
 いろいろ訊きたいこともあるけれど、とりあえず食べ終わるのを待つことにしよう。
 カップアイスは案の定溶けていたから、すぐ食べるのは諦めて冷凍庫に入れておいた。

「ごちそうさま。とても美味しかったわ」
 洗い物は私にさせてと言うから、お言葉に甘えて。
 さっきまで飲んでいたジュースも空になり、手持ち無沙汰で流しに立つロビンさんの後ろ姿を観察する。
 足長いなあ。
 身長何センチかな。180は絶対越えてる。
 にしてもこの状況、私たちまだ会って半日も経ってないのになということを思い出すと、ちょっとおかしくなってきた。
 やがてジャージャー言ってた水の音が止まって、ロビンさんが振り向いた。
 捲っていたブラウスの袖を伸ばしながらまた正座をしかけていたから、足崩しなよと勧めると素直にそうした。
「ロビンさんってさ、仕事何してるの?」
「普通の会社員よ。そうだ、名刺渡しておくわね」
 脱いで傍らに置いてあったジャケットの内ポケットから取り出したのは、シンプルな名刺入れ。
 細い指で中から一枚すっと抜き取り、私に手渡した。
「どうも……あ、それハンガーにかけといたほうがいいんじゃない?」
「お願いできるかしら。ありがとう」
 差し出された名刺を見ながら、ジャケットも受け取ってハンガーにかける。
 そこには確かにニコ・ロビンという名前と、社名と部署名、会社の住所、そして恐らく会社支給のものと思われる携帯番号とメールアドレスが載っている。
「……そういえば、私名刺とかもらったの初めてだわ」
「そう。えっと、ナミちゃんは……」
「あ、大学生よ。大学1年」
「そうなのね」
 もらった名刺をどうすればいいのかわからなくて、とりあえず財布に仕舞っておくことに。
 食事が終わったら詳しく話を聞こうと思っていたけど、時間を確認するともう1時を過ぎていた。
 土曜日だから大学は休みだけど、ロビンさんの会社はどうなんだろう。
 壁の時計を見ながらそんなことを考えていると、ロビンさんが声をかけてきた。
「もしかして、ナミちゃん朝が早いの?」
「いや、私はいいんだけど、ロビンさんはどうなのかなって考えてたとこ。なんなら先にお風呂使っていいけど」
「私も明日はお休みよ」
「そ。でもまあどうせ入んなきゃだし、ちゃちゃっとシャワー浴びてきたら? 寝間着とか用意しとくから」

 
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