異質な存在


風が、騒がしい。
大気が震えるような騒々しさは、けれど一瞬のものだった。遥か南のミーズ城からは竜騎士たちが進軍してくる気配があるが、それとは全く異なるもの。普段とは違うもの、精霊たちが感じている違和感。
今まで経験したことのない感覚だが、脳は逆に冷静になっていく。何が起きようとしているのかをあくまで客観的に捉える必要がある。それが徐々に近づいている、と風の精霊たちはざわめいている。
そしてそれは、見知った人物とともに現れた。

「セティ殿はいるか!」

「ブライトン!?何故きみがここに…」

「すまん、離脱する途中で逃げ遅れた市民を発見した。マチュアがいま最終確認中だが、恐らく彼女が最後だろう」

ブライトンの背中から不器用そうに下りた少女を観察しつつ指示を出す。

「わかった。確かにこの状況では市民は城にいた方が安全だろう。ブライトン、きみはマチュアと合流後速やかに離脱。リーフ王子のもとへ」

「承知した」

不安要素は持ち込みたくないが、彼女はここで監視した方がいい。
ブライトンの気配が十分に遠退き、辺りはまた静かになった。バルコニーに出てミーズ城を眺めると、遠くだった竜騎士たちの風を切る気配が、少し濃くなった気がする。まだ肉眼では確認できないが、攻められるのは時間の問題だろう。

「きみは、」

「え、はいっ」

突然話しかけられて驚いたのか、少女は大袈裟に肩を震わせて振り向いた。その瞬間にパッと散った黒髪が、こちらを不安そうに見つめるブラックオニキスのように艶めいた瞳が。彼女は違う、異なる人間だという絶対的な確信に貫かれる。
一瞬、強烈な違和と同時に彼女の存在を今すぐ消し去った方がいいのでは、との思いが過る。ユリウス皇子のような邪悪な空気は感じないが、未知のものに対峙したときのような感覚。

「っ、そうか…今はそれどころではないな。きみの処遇は後回しだ。死にたくなければ大人しくしておくことだ」

頬の皮膚を掠める感触に、いまの状況を思い出す。未知の存在よりも、今はトラキア竜騎士という明確な敵に対峙しなければならない。頬の血を指先で拭いながら、それを思い出させてくれた精霊たちを呼び寄せた。





 

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