自覚


知らず知らずのうちにうとうとし始めていた頃だった。突然びゅう、と突風が吹き眠気も一緒に吹き飛ぶ。ヨダレが出てなかったかな、なんて慌てて口を拭う。

「なまえ」

呼ばれて振り向くと、眠りから目覚めた大魔王様が。起き抜けだというのに眠そうな素振りなんてなくスッキリした顔である。

「一人にしてすまなかった。だが、君のお陰で疲れがとれたよ。ありがとう」

「それは…何より、です」

この人こんなに優しかったっけ?頭の中で疑問が浮かぶけれど睡魔が再びやってきて正直それどころではない。

「君はゆっくり休むといい」

それはどうも、なんて返事をする余裕もなくまるで落ちていくようにわたしは意識を手放した。


ーーーーー

彼女が眠った瞬間に座っていた体勢がゆらりと崩れる。その体を抱きとめて、目を覚まさなかったのを確認して安心するものの、腕の中で眠るなまえをどうすればいいのか途方にくれる。同時に、柔らかな彼女に触れていること自体に目眩がするような感覚を覚える。胸のあたりが締め付けられるように苦しく、けれど不快ではない。そして今この瞬間だけは彼女を独占していられる優越感と幸福。これらすべての感情の根源がなんなのか、分からないほど子どもではなかった。
正体不明で不可思議。厄介な人を好きになったものだと我ながら呆れる。どこを好きになったのか、そんなことを聞かれてもきっと分からない。いつの間にか惹かれていて、そして、一部の人間はきっと気づいていた。アーサーがなまえの話題を振ってくる時の、何か言いたげな表情はきっと彼の方が先に自分の気持ちに気付いていたからだろう。気恥ずかしい気もするが、自覚してしまえばどこか腑に落ちたようにすっきりする。
いつも自分に対しては怯えていたり、遠慮していたりする彼女が他の人と楽しそうにしていると気になるし、イライラしてしまうこともある。それが何なのか分からずにいた時は、自分もつい彼女に八つ当たりのような態度をとってしまうことがあった。優しくしたい。自分の気持ちに気がついたからには彼女に自分の気持ちを知って欲しいし、もっと知りたいと思う。

「私にもっと…君のことを教えてくれないか」

目を覚ました時には、きっとまだ素直に伝えることができない。その願いが望み薄いことも何となくは気付いている。だから、彼女の寝顔をぼんやり見つめながら祈りにも似た願いを口にすることしかできなかった。





 

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