動揺


「なまえ。具合はもう大丈夫かい?」

「っ、セリスさま、」

普段めったに話すことのない人、しかも若いとはいえ軍のトップに話しかけられて思わず動揺した。え、名前セリスでよかったっけ?間違ってないよね。

「はい、あの、おかげさまで…」

「よかった。無理はしないようにね。それと、みんなにも呼びかけするのだけど、なるべく一人での行動はしないでほしい」

そうだ、この街に来てからユリアさんが行方不明になったんだ。可能性としては、敵に攫われた線が濃厚らしい。

「分かりました」

「ありがとう。もう、仲間を失いたくないんだ」

ユリアさんは記憶喪失とはいえ、杖を使うこともできるし魔法を使うこともできる。それでも、敵に攫われてしまう。となると、戦うことすらできないわたしは一体どうすれば。
セリスさまが去っていったあと、首を傾げながら悩んでいたもんだから周囲への注意がすっかりお留守になっていた。

「なまえ」

やべぇ。気まずいからって何となく避けていたけれど、いざ直面してみるとこれもまた半端ない気まずさがある。

「はい…?」

振り返るとやっぱり恐怖の大魔王様ご登場。怒られて以来ちゃんと話すのも久々だからかもしれないけれど、なんだろう。何だか少し、雰囲気が違う?

「もうすでに君の耳にも届いているかもしれないが、ユリアの姿が見当たらない。敵に攫われた可能性が高いから全員に注意喚起されている。君も、単独行動は控えるように」

言ってることはセリスさまと同じなのに言い方な。なんていうか、もっと丸いトゲのない言い方がありそうなもんなんだけど。これだからわたしの中の大魔王様枠がブレないんだよなぁきっと。

「…どうかしたのか」

あー、とかはぁ、みたいの生返事をしていたのが気に障ったのか大魔王様の表情が険しくなった気がする。こわいわ。

「いやぁ…誰かといてもわたし何もできないんで、足引っ張るのも嫌だなと思って…」

この前みたいに誰かが傷付くのも嫌だし、かといって自分の命と引き換えに何かをするのも嫌だ。せめて自分を守るぐらいの力があればよかったのに。もしくは絶対安全地帯。

「君が何かする必要はない。私の側から離れないようにしなさい」

「え?」

「….不満でも?」

「いえ、めっそうもないです…お願いします…」

こっわ!ていうか、あなた結構強いから敵の真っ只中に行くんじゃないの!?離れないようにとか無理ゲーなんですけど!?ていうかついでに言うと雰囲気と声音変えたら口説き文句に聞こえるわアホ大魔王!





 

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