嵐のまえの、
どこか遠いところで誰かの話し声がする。聞いたことがあるようなないような、低いような高いような、男の人とも女の人とも分からない。ただ、ざわざわと誰かが何かを話している。
「なまえ」
その中で、名前を呼ばれた気がしてふわふわ漂うだけだった感覚がだんだんクリアになってくる。同時に、眩しい光が入ってきてここはどこだったか、さっきまでのぼんやりした世界が薄れていく。
「ん…あれ…?」
「気がついたか」
そこにいたのは、大魔王、でなくて穏やかな空気のあの人だった。レヴィンさん、だったかな。いつだったかセリスさんと一緒にいた人だ。
「はい、あの、わたし…」
何してたんだっけ、と聞くのはあまりにも間抜けなんだけどもどうして自分がベッドで横になっているのかイマイチ状況が掴めない。
「覚えていないか?お前は…」
お前は?途中で言葉を切って黙り込んでしまったレヴィンさん。続きが気になるんだが、ここは黙って待つところだろう。すると、急にため息をついて頭をおさえてしまった。どうしたんですが一体。
「いや、それよりも身体の様子がおかしい時にはすぐに言うのだぞ。私は少し用事があっていつも気がけてはやれないからな」
「あ、はい。分かりました」
どこぞでも似たようなこと言われたな、と不思議に思いつつレヴィンさんが出ていった扉を見つめる。体を起こしてみるとびっくりするほど怠い、というかしんどい感覚に思わず引く。城が襲われるから逃げろと言われて逃げた先で黒髪一族に助けられて。
「あ、」
そういえば、あの人どうなったんだろう。黒髪短髪のいかにも好青年な人。馴染みのない名前ばっかりでみんな全然覚えられないんだけど。
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