合同企画 | ナノ

リヴァイ


私には少し歳の離れた自慢のお姉ちゃんが一人いた。…と、言っても第三者から見れば私とお姉ちゃんは血の繋がりなど全くない赤の他人。私とお姉ちゃんは隣同士に住んでいるただのご近所さん。
そう、文字通りただのご近所さん。
端から見れば確かにそうかもしれないけれど、私にとって、彼女は本当の、たった一人のお姉ちゃんだった。


「血の繋がりなんて関係ない。だって私となまえには強い絆がある。だから、いい?今までもこれからも私達は姉と妹でずっと家族なの」


そう言って柔らかな笑みを浮かべながら私の頭を撫でてくれたお姉ちゃんとの思い出は今でも鮮明に残ってる。
例えば、ほんの一例に過ぎないけれど、私が泣けばお姉ちゃんは抱き締めてくれるし、私が人様の怒りを買ってしまうようなことをやらかしてもお姉ちゃんはいつも私の味方で傍にいてくれた。
わたしたちはずっといっしょ。
その言葉は幸せで満ち溢れていて私の心を暖かくしてくれる。まるで幸せになれる魔法にかかったかのよう。
幼い頃の私は、この小さくて、でも温かい幸せがずっと続くものだと信じて疑わなかった。

…そう。
信じていたのにね。
一度も疑わなかったのにね。


「へいし?」
「そう、兵士!兵士になって巨人からみんなを…あなたを守る!!」


守る。その言葉の重みを知らなかった私は楽観的に考えていたのだと思う。
敵の存在を知らなければ当然見たこともなかったし、巨人イコールおじいちゃんおばあちゃんが言う昔話に出てくる架空のものだと、そんなものは空気と同じで子供を怖がらせる為の作り話だと頭の中で思っていたから。だからお姉ちゃんの話も軽く流していた。


*****


「今回の壁外調査のことだが、」


あれから数年。
あの時の私はまだまだ子供で、悲しいほど浅はかで、世界一の大馬鹿者だということを思い知らされる。
今、ここに、私のお姉ちゃんはもう居ない。彼女は数年前の壁外調査で女型の巨人に殺されたと聞いた。
そう、彼女は私を置いて共に戦った仲間と一緒に、遠い空の向こう側へと行ってしまったのだ。


「…(お姉ちゃん、)」


まだ若くしてその人生を終えてしまった彼女は何を思い戦って散っていったのだろう。
彼女は仲間と共に笑いあえただろうか?
寂しさや辛さを共有できる者は居たのだろうか?
愛する者はいたのだろうか?

…やり残したことはないのだろうか?


「…(───ははっ…。そんなの…知る術などありはしないのにね。)」
「…おい、聞いているのか」


兵長の声で私は現実に戻ってくる。
彼もまた絶望の傍らで、ギリギリの世界での中で死闘を繰り広げてきた人。
お姉ちゃんとの違いは彼は列記とした生存者であるということ。
兵長は仲間の死をどう思ったのだろう?
…お姉ちゃんの死は?
ぼんやりと、でも顔には出さずに考えていると、兵長は鋭い視線を私にむけながら言葉を吐き出す。


「経験は浅いがお前は判断力もあるし腕も立つからな。だから俺は構わねェ」
「はい、多くの巨人を駆逐出来るよう頑張ります。宜しくお願いします」
「…………なまえよ、」
「はい」
「…聞け。」
「…?」
「知ってるかもしれないがお前が姉と慕っていた女は昔、」
「っ、兵長!!!」


リヴァイ兵長の声を遮り私は力強く腹の底から叫んだ。それからすぐに私は心臓に拳を当てる。聞きたくなかった。
封印していたはずの傷口を簡単に抉ってしまうであろう、兵長の口から発せられる悲しくて残酷な言葉の数々を。
私は絶対に聞きたくなかった。


「私はリヴァイ班の一人として与えられたら任務を全うするだけです」


そして、ペトラ・ラルの見てきた世界を私は見たい、彼女が守ろうとしたこの世界を私は守りたい。
……それから彼女を死に追いやった「根元」を削いで、潰して、ぐしゃぐしゃにして、全て駆逐したい。


「ただ、それだけのことです」


本心は空気と一緒に飲み込む。兵長に言うべきことではない、言う必要もないと思ったからだ。
兵長は数秒置いてから「…そうか」と言い背を向ける。そしてそのまま窓際から外を眺め始めた。
それを確認した私は踵を返す。


「…お前の好きにしろ。だが無駄死には好きじゃねェ。死ぬなよ、」


絶対にな。
ぼそり、と呟く兵長の言葉に対し、私は聞こえないふりをしてドアの取っ手に手をかけた。

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