守るべきものは何か、わたしはもう知っているの



ハンジの元からリヴァイの部屋へ意識を巡らせると辺りはしんと静まり返っていて、実体化するのもどことなく憚られる。
真っ暗な部屋で、月明かりを頼りに目を凝らせばリヴァイはすでにベッドで休んでいるらしい。ベッドの縁までふわふわ移動して寝顔を覗きこむ。お世辞にも穏やかに眠ってるとは言えない、相変わらずの仏頂面に思わず噴きそうになった。それでも、彼の心の中はボロボロだろうから笑いはすぐに治まった。額にかかった前髪をよけてやろうと、実体化させた手をそっと伸ばす。

「っ!?」

リヴァイの前髪に触れるか触れないか、とそこまで近づいた手をパシッと掴まれそのままの勢いでベッドに引きずり込まれる。

「名前、」

マズイ、と思いつつも実体化は解かない。

「…リヴァイ?」

解かない、というより解けない、と言ったほうが正しいかもしれない。こんな風、辛そうな眸で見つめられたら。
表情は、あまり変わらない。無表情か、あるいは仏頂面。それなのに眸だけがこうもダイレクトに彼の感情を伝えてくる。それが余計、わたしを動けなくする。
突っ張るために緊張していた身体の力をふっと抜いて大人しくリヴァイに抱き締められれば、いつもものように肩口に顔を埋められる。彼が本当はこんなに甘えん坊だなんて、きっと誰も知らない。わたししか見ることのない彼の姿にほんの少しの優越感と、不安。世間は皆、彼を人類最強と呼ぶ。たった一人の人間に一体どれほどの人々が期待しているのか。それに押し潰されるような人ではないだろうけれど、わたしは時々怖くなる。

「ねぇ、リヴァイ」

背は高くないけど、小柄だと感じないのは筋肉がしっかりついているから。

「…なんだ」

綺麗好きなのか潔癖症なのか知らないが、彼が返り血を浴びて帰ってきたことなんてない。わたしがこうして彼に抱き締められるときは、いつだってまっさらで綺麗なリヴァイだ。
怪我をすることもなく、わたしの知っている姿のままで戻ってきてくれる。それがわたしにとってどれほどの救いになっているか、多分彼は分かってない。だからこそ。

「おかえり」

何度だって伝える。ここに帰ってきてくれてありがとう、と。
彼が、彼らがわたしの世界を守ってくれている。だからわたしは、自分なりのやり方で彼らを守ると、もうずっと前から決めているのだ。


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