ねぇ、あなたの名前を教えてくれる?



†ゴーストっぽい日本人の女の子が主人公のお話。
†リヴァイ、エルヴィン、エレンと調査兵団中心。
†ひとつひとつのお話が繋がっていたりそうでなかったり。


‡‡‡

いつ頃からだっただろう。その声が聞こえ始めたのは。

『…何なのよ、ここは…あぁもう、いい加減うんざり』

ハッキリ聞き取れる時もあればそうでない時もある、酷く曖昧な現象。そしてそれはどうやら他の人間には影響していないらしい。不可思議だが、実に興味深い。この際、白黒つけるか。巨人の研究で煮詰まった頭を冷やすには丁度いいかもしれない。

『はーっ…このままの状態が続いたら発狂するかも。閉鎖的かつ孤独な環境で人間が引き起こす衝動…』

ぶつぶつと呟かれる声を辿っていくと、やがてそれは明瞭になる。自嘲的な響きの声音だが、内容は興味深い。

「と、いうことは君は自分を人間だと認識してるってこと?」

そう、ついうっかり声を出してしまうぐらいには興味を惹かれる存在だった。
だが、声が応える様子はない。辺りには自分以外いないと確認済みだが警戒させてしまったか。

「あれ?びっくりさせちゃった?私としては君ともう少し色々話をしてみたいところなんだけど」

『…あなた、わたしのことが見えるの?』

「見えてないよ、残念ながらね」

『そう…でも、声は聞こえるの』

「そうだね…少し前から。でもまさか、会話できるとは思わなかったけど」

研究対象である巨人とは未だに意思の疎通ができない。人間と似たような姿形をしているにも関わらず、性質は異なる。
だから、というわけでもないが人間と同じ言語を操る姿の見えない存在と何の不自由もなく会話できているのが少しおかしかった。

『あら、奇遇。わたしも話ができる人がいるとは思わなかったわ。と言うより、わたしの声が聞こえる人がいるとはね』

「他の人には誰も聞こえない、ということかい?」

『さぁね。全員に試したわけじゃないし…あなたにだって、話しかけたことはなかったし。だから逆に話しかけられてびっくりしたんだけど』

「それもそうか…あ、そういえば自己紹介が遅れたね。私の名前はハンジ。ハンジ・ゾエ。君は?」

『わたしは苗字名前よ。ええと、ここは外国だから名前、がファーストネームね』

「ということは、名前・苗字?」

「そうよ」

「えっ?君が…名前?」

急に鮮明になった声に驚いて思考とともに沈んでいた顔をあげる。名前の響きからある程度予測できてはいたが、彼女は東洋人らしい。

「いつから、そこに…」

「あら、さっきからずっとここにいたわよ。目が合ったのは今初めてだけど」

これが私と彼女の、初めての邂逅だった。


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