(黄瀬が朝方トイレに行きたくなる話。黄にょ黒ちゃんはナチュラルに同棲中)



 朝方、思いっきり腹を踏まれた痛みで目が覚めた。



「ぃぎっ!?」

 心地好い眠りを一瞬で台無しにされ、黄瀬は飛び起きる。よく考えなくても、こんなことをするのはひとりしかいない。となりの布団はやはり、もぬけの殻であった。触ってみるとかなり温かい。抜け出て間もないということが分かる。
 額に手をやってため息をついた途端に聞こえてきた水の音。それが止む前に扉を開けて入ってきたのはやっぱり、黒子であった。

「……くろこっち」

 トイレに起きるときはあれほど、人を踏むなと言わなかっただろうか。扉側は落ち着かないから壁側で寝かせてほしいと言ったのは彼女なのに。今日こそは文句のひとつでも言ってやろう。そう心に決め、何事もなかったかのように布団に戻ろうとする黒子のパジャマの裾をつかみ、黄瀬は彼女を呼びとめた。

「こら、ちょっと待ちなさ――いッ!?」

 裾を引いて立ち止まる、までは良かったもののそれほど強く引いたわけでもないのに黒子のからだはぐらりと傾く。そして彼女はそのままどすんと、黄瀬の腹のうえに尻もちをついたものだから、再び腹をつぶされる結果となってしまった。本日二度目の悲鳴が黄瀬の口から漏れる。

「うごっ!!」
「ん……う。きせく、うるさい、れす」

 とろりと、まどろんだ目をうっすら開いた黒子は寝ぼけているのか、自分のくちびるにひとさし指を当て「しぃ」と、まるでこどもに言い聞かせるように言う。誰のせいだと思っていても口には出せない黄瀬がやれやれといった様子で押し黙ると、黒子はそれを了承と受け取ったのだろう。黄瀬の胴に手を回し、ぎゅっとからだの密着した――いわゆる抱き着いた状態になると、寝る体制に入ってしまう。

「いっしょに寝てあげますから、しずかに寝るんですよ」

 おやすみなさい、とひと言だけもごもご呟いた黒子はそのまま目を閉じ、おだやかな寝息をたてはじめた。そこで穏やかでなくなったのは黄瀬である。こんな状態で眠れるわけがない。さらに言うと、先ほど二度も腹をつぶされたせいか、今になって尿意が沸き起こってきたのだ。

(や、やばい……!!)

 黒子に起きる気配も離してくれる気配もない。びくともしないホールドは、普段であったら嬉しいはずなのに、今この瞬間、喜びなど全く無かった。あるのはただただ、トイレに行きたいという極めて生理的な欲求だけなのである。




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