(島での生活中)




かなしいときは笑えばよくて、うれしいときはどうしたらいいのか分からなかった。



「……お前、つまんないならつまんないって言えよ?」
「へ?」

 日向に言われた言葉に、狛枝はゆっくりと、不思議そうに首を傾げた。どちらかと言えば勝っていたので気分的には楽しかったのだが、自分はそんなにもつまらなさそうな顔をしていただろうか。だったら申し訳ない。日向に不快な思いをさせてしまった自分を、狛枝は恥じた。
 日向は手前のトランプを一枚と、奥のトランプをめくる。ハートのエースとスペードの8。ため息をついて元に戻す。神経衰弱を、やっていたのだった。何せこの島には娯楽というものがほとんどない。いや、七海はゲームを持込みしていたけれど。本とかあれば暇が潰せるんだけどなあ、と日向が以前雑談で言っていたのを思い出して、狛枝はウサミの所に赴いたのだった。ねえ、ボードゲームとかカードゲームとかないの?なるべく、『二人で』出来るのがいいんだけど。みんなで仲良くしろとウサミは散々注意してからトランプを一組渡してくれた。そしてそれを携えて、狛枝は日向のコテージに押し掛けたのだった。ねえ、日向クントランプしない? と。

「つまんないなら、止めるか?」
「えっ、いやだよ! ボク今すごく楽しいんだから!」

 慌ててそう言うと、日向はとても意外そうな顔をした。そんな顔してなかったぞと目が物語っている。

「……ごめん、うれしいときって、どんな顔したら分からないんだ」

 この島に来てから知った、というか思い出したその感情をうまく表すことが出来ず、狛枝はしょげる。ふわりと空気をふくんだ髪の毛が、心なしかしおしおと萎んだような錯覚を日向はおぼえた。仕方ないなあ、と思う。トランプをすべて蹴散らして狛枝の真ん前に座った日向は、彼の柔らかそうな頬を左右に思いっきり伸ばした。

「こうやってっ、わらえばっ、いいんだよっ」
「いひゃ、ひひゃひひょひなはふんっ!」

 悲鳴をあげると、パッと手が離される。頬は痛かったけれど、でもこれ、まるで友達同士がやるみたいだ。どきん、こころが弾む。するとそれを見透かしたように、日向が狛枝の頬に、手を重ねた。



「なんだ、ちゃんと笑えるんじゃないか」
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