(修学旅行中)




「日本の文字は、本当に綺麗だと思います」

 図書館の、一番奥の席で魔獣図鑑(と勝手に名付けた動物図鑑)を真剣に読み耽っていた田中の真正面に勝手に座り込んだソニアは、持ってきた本を読みながら目を輝かせた。田中はソニアをちらりと見て、また図鑑に視線を戻す。どうやら彼女が読んでいるのは辞書の類のようだった。日本語の勉強でもしているのだろうか。まあそれでも、自分には関係のないことだ。王女というのも大変だな、と気持ちの入らない見当はずれな感想を心の中だけで呟く。
 というかそんなことより、ソニアは何故この席についたのだろう、と田中は思った。空いている机なら他にいくつもあるのだから、わざわざ田中のいる机で読む必要はないはずだ。自分のような物好きにすらめげずに話し掛けてくるソニアの存在は、少しくすぐったい。
 ちら。と彼女の方を見る。ソニアは両腕で頬杖をつき、田中を観察するように見つめていた。

「なっ、……っ!!」

 ばっちり目が合ってしまい、田中は慌てて首の布をたくしあげて顔を覆った。恥ずかしがりやのハムスターのような反応に、ソニアがくすくすと笑い声をあげる。はしたなくないよう、口元に添えられた白い手が眩しかった。するとその手が、すっと置かれた辞書を田中の方に近付けて、ある漢字を指す。ソニアは田中の顔と文字を見比べ真剣な顔つきになった。

「私、辞書と田中さんを見ていて、気付いたんです。いとしいとしと言う心です!」

 突然立ち上がりビシッ! とポーズを決めたソニアは、自信満々に田中をロックオンして、ずばり言い切る。

「どうやら私は、田中さんに恋してしまいました!」


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