そしてわたしたちはキスをした(MARGINAL#4/ルイ)


「榛名さん、」
「へ、あ、ルイくん。どうしたのこんな時間に」

 ドアを開けた姿勢で私は固まった。ぽかんとくちを開けた私を見てルイ君は「あけましておめでとうございます」なんて言ってにこりと笑ってみせる。私はへどもどしたかんじで同じ言葉を返して、そこで我に返った。
 ぴんぽん、と間抜けな音を立てたチャイムに返事をしつつ、ドアを開けた先にいたのがルイ君だったのだが、ルイ君はこんなところにふつうに立っていていい人間ではないのである。私は慌ててルイ君の手を引いて家の中に招き入れ、急いでドアを閉めた。

「な、ななななんでこんなところにいるの!?」
「お邪魔しますね」
「そうじゃなくて!」

 半ば喰いつくようにして彼の薄い肩をゆさぶる。それでもルイ君はなんだか楽しそうに微笑んでいた。今日の彼は機嫌がいいみたいだ。自分のものより数十センチ上にあるそのうつくしいかんばせを眺めて、私はやがて息をついた。

「・・・・・・家に来るときは連絡してから来てって言ってるでしょう」
「はい」
「にこにこしたってだめです!」
「いい加減諦めたほうがいいと思いますよ、榛名さんも」

 僕は、貴方の驚く顔が存外好きなんですよ。
 いたずらっぽく囁いたルイ君が私の髪をするりと撫でる。優しい指先に、肩がぴくりと揺れてしまう。そうして私はまた、この年下の輝かしいアイドルに丸め込まれてしまうのだ。赤らんでしまった顔を隠すように俯くけれど、どうせ耳の色でぜんぶばれてしまってるんだろうなって、おもう。

「照れる榛名さんも好きです」
「・・・・・・わたしはいじわるなルイくんはきらいです」
「泣いちゃいますよ?」
「うそつけ」

 くすりと笑えば、ルイ君も楽しそうに肩を揺らした。その笑いが収まってから、いつまでも玄関にいても仕方ないからと私は彼を家の中に引きいれたときと同じように、リビングへと案内する。
 勝手知ったる様でリビングに足を踏み入れたルイ君は、おじゃましますと零してからダイニングテーブルの椅子に腰かけた。私はインスタントのコーヒーを淹れて、彼の前に差し出す。

「ありがとうございます」
「ごめんね、インスタントしかなくて」
「こういうのも結構好きですよ?」
「まさか。・・・・・・ところで」
「はい?」
「どうして家に来たか聞いてない」
「ああ、」

 私の言葉にぱちりと目を瞬いたルイ君は、思い出したように声を上げて、手持ちの鞄を何やら探り始めた。そこから取り出されたのは、青いリボンできれいにラッピングされた小さな箱で。

「え、」
「誕生日おめでとうございます」
「・・・・・・おぼえて、たの」
「僕が忘れるわけないでしょう」

 すきなひとの誕生日なんですから。
 テレビの向こうで見かけるものとは違って、とろりと蕩けた瞳は私だけをまっすぐに射抜く。かたちのよい唇からこぼれた私の名前も、頬に添えられる手の温度も、用意されたプレゼントも、――――目の前にいるこのきれいなおとこのこも、この瞬間だけはぜんぶぜんぶ、わたしだけのものなのだ。


そしてわたしたちはキスをした


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