だって君はシンデレラ(tp/日吉)


「年越しの瞬間にさぁ」
「はい」
「おれ地球にいなかった、っていうのあるじゃん」
「はぁ」
「それを若と一緒にやってみたい」
「馬鹿ですかアンタ」
「若は相変わらず辛辣だなぁ」

 くすりと笑ってみせれば、愛すべき後輩は苦虫を噛み潰したような顔になった。
 大晦日に跡部家主催のパーティーがあり、私たちテニス部レギュラーがそこにお呼ばれするというしきたりは跡部が部長になってからの取り決めだ。若だけはひどく嫌そうな、ちょうど今のような顔をしたけれど、跡部の部長命令には逆らえなかったらしい。集合時間の十五分前にきっちりと現れた若は後輩の鏡だと思う。

「・・・・・・まぁ今のは冗談で」
「死んでくれますか?」

 ひどい。また笑ってみせると、若は私の頭を軽くはたいた。綺麗にセットした髪がすこし崩れてしまう。それに気付いたらしい若が「あ、」と小さく声を零した。

「・・・・・・すみません」
「いいよ。私は優しい先輩だからね」
「は?」
「なぁに、私が優しくないとでもいうの」
「――――当たり前だ」

 やや吐き捨てるような言葉に私は目を瞬く。これはなんだか若らしくない物言いだ。この後輩は辛辣な言葉こそ吐きはすれど、こんなに棘を潜ませた声を、女である私に向けるような子じゃなかったはず、だ。

「俺を、――――置いていくくせに」
「へ、」
「あと三ヶ月で俺を置いていくアンタのどこが優しい先輩なんですか」

 今度こそ、拗ねたような声だった。こちらを見下ろす目はもう冷たさなんてどこにもなくて、ただ途方に暮れる迷子の子供みたい、で。私の手を掠めるように撫でた指先はひどくあつく感じた。
 このまま攫ってしまえたらいいのに、なんて。まるで若らしくない台詞なのに、私の胸はまるで撃ち抜かれたようにどくりどくりと痛んで、波打つ。

「・・・・・・ねぇ、」
「なんですか」
「手始めに、このパーティーを抜け出してみない?」

 若は一瞬目を見開いて、ついで不敵に笑ってみせる。

「いいですよ」


だって君はシンデレラ


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