スターレインロック(DYNA/玲音)


「あけおめ」
「え・・・・・・あ、あけおめ・・・・・・」

 頭上から降ってきた声に顔を上げれば、二色の瞳が私を見下ろしていた。私に声をかけたのが彼であるという事実に、ただただ驚いた。私と彼、――――香椎玲音は確かにクラスメイトではあるものの、特別な関係はないに等しい。たまに話す程度だ。私は彼の周りを彩るうつくしい女の子たちのようにはなれないし、きゃいきゃい騒ぐのも性に合わないのである。
 だから私は、今までひっそりと彼のことを見つめ、そのバンド活動を陰ながら応援していた、のに。
 返事を寄越した私に少し満足そうな顔をして、玲音君は私の前の席の椅子を引き、こちらに身体を向ける形で座った。ちなみにそこは玲音君の席ではない。鈴木君の席だ。

「・・・・・・お前さ」
「なんでしょう」
「この前のライブ見に来てただろ。クリスマスの」
「え、っ」

 にやり。愉しげに口元を歪ませた彼に対し、私は思わず目を見開く。なんで、と零せば「たまたま見えた」と事もなげに言ってのけた。去年のクリスマスライブはとにかく人が多くて、ステージの上の彼をちゃんと見ることさえ難しかった、はずだ。そんな中、彼は私を見つけたのだろうか。

「・・・・・・見えたの?」
「ステージの上って意外と色々見えるモンなんだよ。お前の他にも何人かクラスの奴見えたし」
「・・・・・・玲音君は目がいいんだね」
「ふつうだろ」

 椅子の背もたれに頬杖をついた玲音君は、反対の手をひらひらと振ってみせた。そこに見慣れないものが握られているのが見えて、私は目を瞬く。

「どうしたの、それ」
「あー、これ?」
「お年玉袋だよね」
「そ」

 彼の手に握られていたのは可愛らしいピンクのお年玉袋だった。時期柄、良く見かけるものではあるけれど、学校に持ってくるようなものじゃない。
 首を傾げた私に悪戯っぽい笑みを浮かべて、玲音君はそれを私のほうへと差し出した。反射的に受け取ってから、はっと我に返る。

「・・・・・・えっ、ま、まって玲音君、これ」
「別に金は入ってねぇよ」
「そうですか・・・・・・え、じゃあこれ、何が入ってるの」
「開けてみろよ」

 ちょい、と玲音君の人差し指がお年玉袋の表面を引っ掻く。私はそれを開けて、中を見て、――――思わずぽかんとしてしまった。

「これ、」
「・・・・・・俺らさ、事務所の人に声かけてもらってさ。メジャーデビューすんの。今度」
「エッ」
「で、これは、その初ライブのチケット。しかも最前列」
「えっ、え・・・・・・あ、あの、玲音君」
「なんだよ」
「・・・・・・私がもらっていいの?」

 自分の手の中にある、きらきらしたチケット。欲しい人はいくらだっているだろう。それこそ、このクラスにもたくさんの玲音君ファンがいるわけで、私はその中の一人にすぎない。
 でも、私の質問に何故か眉を寄せた玲音君が、「ばか」

「俺からのお年玉が受け取れねぇのかよ」
「お、お年玉だったのこれ」
「だからわざわざ袋に入れたんだろ」
「な、なるほど・・・・・・?」
「いいから、ちゃんと来いよ」
「あ、」

 話は終わったとばかりに、玲音君が席を立つ。私の手の中にはチケットが残され、授業開始を知らせるチャイムが鳴った。私はしばしチケットを見つめて、それからそっと手帳に挟んだ。
 その授業のあと、何故か教室にやってきた月野原先輩が玲音君に「おっ、ちゃんと渡せたのか。偉いぞー」なんてにこにこしているのをたまたま見かけてしまい、ついでにそのときのやや赤くなった玲音君の顔にも気付いてしまった私は、じわじわと這いあがってくる甘ったるい痛みに、顔を覆った。
 どうしよう、にやける。


スターレインロック

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