事の顛末はご存知の通り(wtr/太刀川)


 年末も年末。今年最後の一日は、ボーダーの忘年会が催されることになった。二十歳以上は全員強制参加らしく、私は逃げ切ることができなかった。これってパワハラじゃないのかな。まぁいいけど。
 騒がしい室内には、見慣れた顔ばかりが並んでいる。私は手の中のグラスを呷ってすこしだけ息を吐いた。ちょっと飲みすぎてしまったかもしれない。お酒はこれぐらいで終わりにしておいたほうがいいかな。私がグラスを机に戻すと、それが横合いからひったくられた。

「あ、」
「げ。あま、」

 飲み干したのか空になったグラスをゆらゆらと揺らして、顔をしかめたのは太刀川だった。私は彼の姿をみとめてぱちりと目を瞬く。太刀川はさっきまで私とは反対側の座敷にいたはずだ。いつの間にこちらに来たのだろう。呆けたまま彼を見上げていたら、急にぐっと顔を近づけられた。

「お前、こんなクソ甘いもん飲んでんの」
「・・・・・・たちかわ」
「なに?酔ってんの?」
「ん、」

 めずらしい。面白そうに笑った太刀川は、そのまま私の隣に腰を下ろしてしまった。そのときに身体がふらついて、私に軽くぶつかる。どうやら太刀川も相当酔っているらしかった。わり、と零したそれに頷いて、私はそちらに向き直る。

「太刀川はどうしたの。さっきまであっちにいたのに」
「んー、ちょっと疲れた、から、逃げてきた」
「あっちだと飲まされる?」
「当たり前だろ。俺が何本一気させられたと思ってんだよ。・・・・・・行くなよ。吐くぞ」
「いかないよ」

 そういえば太刀川は心なしか顔色が悪いように見えた。もしかして吐きそう?と聞くと、ゆるく首が振られる。方向は横だ。「じゃあ気持ちわるい?」今度は首が縦に振れた。

「だいじょうぶ?」
「大丈夫に見えるか?」
「あんまり・・・・・・」
「だろうな・・・・・・」

 はぁ、とため息をついた太刀川を見て、私は少し首を傾けた。
 太刀川はいつも人を振り回すほうだ。その太刀川が振り回されるなんて珍しい。忍田本部長相手でも色んな御託を並べて優位に立とうとするのに。そう考えると余程の目に遭ったんだろうなと思えて、私は気づけば彼の頭に手を伸ばしていた。
 髪をやさしく梳くように撫でる。太刀川の肩がぴくりと揺れた気がしたけれど、無視してそのまま撫で続けた。予想よりもふわふわの髪を触るのが、すこし楽しい。調子に乗ってそのまま撫で続けていると、太刀川の頭がゆるゆると下へと傾いていくのが分かった。

「・・・・・・たちかわ?」
「ん、」
「っえ、ちょ、」

 彼の頭が私の肩に乗り、腕が背中に回される。縋る子供のようなその体勢に、私は思わず目を剥いた。

「な、なにして」
「んー、くっついてる」
「はなれて」
「ヤダ。そのまま撫でて」
「えええ・・・・・・」

 これじゃあ本当に子供だ。私はちらりと座敷に視線を向ける。みんなはもう完全に出来上がっていて、自分のことでいっぱいいっぱいだ。誰も見てるやつなんかいない。
 私はそろりと手を伸ばし、また太刀川の髪を撫ぜた。彼は気持ち良さそうに息をつき、私の肩にぐりぐりと頭を押し当てた。か、かわいい。太刀川のくせに。

「なー」
「・・・・・・なに、」
「このまま寝ていい?」
「やだよ」

 余談ではあるが、太刀川はそのあとも私に引っ付き続き、何故かそのまま私と同じ電車に乗り、私と同じ道を歩き、私の家に転がり込んで、私に抱き着いたままベッドに倒れ込んだ。
 そして今、――――忘年会の翌日の朝。私はベッドの上、一糸纏わぬ姿で呆然と天井を見上げている。隣では同じく服を着ていない太刀川が何にも知りませんみたいな顔でぐーすか眠っている。

 さて、私はどうするべきか。




事の顛末はご存知の通り


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