ヒーローは幕間で恋をする(wtr/米屋)


「おー、アケマシテオメデト」
「あけましておめでとう、米屋」
「ねぇいまコメヤっつった?コメヤっつったよね?」
「お正月のおもち美味しかった?やっぱり家のお米で餅つきとかした?」
「うん俺んち米屋じゃねーからな」
「じゃあなんだっていうの」
「米屋だから」
「米屋じゃん」
「ややこしい」

 頭が痛いとばかりに首を振る米屋と並んで歩きながら、私はちらりと彼の横顔を窺った。
 呆れているように見せかけて実は、彼がこの米屋論争を嫌っていないことを、私はちゃんと知っている。冬休みに入る直前に出水君に言われたのだ。「槍バカのやつ、最近初対面の奴に挨拶するとき『コメヤじゃなくてヨネヤです』って楽しそうに言ってる」と。
 ボーダーで活躍しているらしい米屋とこういうばかみたいな話をできる立場はとても美味しく、そして楽しいので、私としてもその反応は嬉しい。
 でも、あんまりやると嫌がられてしまいそうだから、私はにっこりと笑って素直に彼の名前を呼んだ。

「ねえヨネヤクン」
「片言!」

 ひっでーの、と笑う彼がばかみたいに愛おしい。

「宿題やった?」
「俺がやるわけないだろ」
「やっぱり」
「と、思うじゃん?ちゃんと全部終わってるんだなー!これが!」
「どうせ三輪君に手伝わせたんでしょ」
「さっすが、わかってんなお前」

 米屋が私の頭に手を置いて、髪をかき混ぜるようにして撫ぜた。それに目を閉じて、やや乱暴な彼の指先の感触に息を吐く。
 言わないけど、当然知っている。正月休み中にも近界民の襲撃があったこと。それの対応に米屋たちが追われていたこと。正月を楽しむ暇なんてなかったであろうこと。だから、宿題ぐらい手伝えたらなっていうお節介と、したごころがすこし。やっぱり超えるべき壁は三輪くんかぁ、なんて半ば冗談交じりに思ったところで、ふと米屋が私の顔を覗きこんでいることに気が付いた。

「お前は正月休みどうだった?」
「ん?・・・・・・んー、へいわ、だったよ」

 米屋のおかげで。言外にそう滲ませた言葉に米屋はきょとんとして、それから優しく、笑った。

「いーね。平和。平和が一番」
「だよね」
「俺なんて町の平和を守るヒーローだもんな」
「だよね」
「なんか投げやりじゃない?」
「そんなことないよ、コメヤクン」
「またコメヤになってんぞおい」

 学校の門が見えてきた。クラスが違う私と米屋は、下駄箱で別れることになる。ああ、おんなじクラスだったら良かったのになぁ。でもあと三ヶ月でクラス替えだしなぁ。ぼんやりとそんなことを考えながら、下駄箱までの数百メートルを歩いていると、「なぁ、」

「なに?」
「俺さぁ、みんなのヒーローとか柄じゃないわけよ」
「そう?似合うと思うけど」
「・・・・・・そういうこっぱずかしいこと言うなよお前・・・・・・」
「で?」
「あ?・・・・・・ああ、そう、で、みんなのヒーローやめたいなって思っててさ、」
「エッ!?ボーダーやめるの!?」
「は!?ち、ちげーよばか、『みんなの』をやめるんだよ」

 驚いて足が止まった私に合わせ、米屋も足を止める。向き合うかたちになった私たちは、登校中の他の生徒に邪魔そうに見られながら、その場に立ち尽くした。

「・・・・・・えーっと、で、なんでこんな話をしたかというと」
「、うん」
「大事なひとりのためのヒーローになりたいって、いう・・・・・・今年の目標があってだな」
「・・・・・・へえ」
「おま、その顔、絶対聞いてねえだろ!!言っとくけどな、――――お前だからな、それ」
「へ、・・・・・・え?」

 米屋の顔が、今までに見たことないぐらい赤い。なんだ。この男は何を言ったんだ。思考がぶつりと切れてしまい、繋ぎ直すのがむずかしい。新年早々こっぱずかしいこと言い出したとおもったら、それのあいてが、わたし。
 呆然と米屋を見上げる私に痺れを切らしたのか、米屋が「・・・・・・なんか言えよ」と拗ねたように呟いた。その似つかわしくないかわいらしさに心臓が飛び跳ねる。そしてその衝撃のまま、ぽろりと言葉が零れ落ちた。

「・・・・・・美味しいお米、毎日食べさせてね」
「うん俺んち米屋じゃねーからな!!・・・・・・って、エッ」
「じゃあそういうことで」
「は!?おいちょっとまて逃げんな!!おい!!」


ヒーローは幕間で恋をする


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