夢がいとしい午前二時(utpr/藍)


 ぷつり。間抜けな音が聞こえそうなぐらいあっけなく、ディスプレイは真っ暗になる。

「・・・・・・ああ」

 もうこんな時間か。呟く声に力がないのが自分でも分かって、なんとなく笑えてきた。年が明ける瞬間をファンと祝うカウントダウンライブ。先ほどまでテレビで流れていた生中継には、当然のように私の恋人の姿があった。電子だか粒子だかで映し出されたそれはまるで違うひとみたいで、見ていてもちっとも楽しくなかったのだ。

「あー・・・・・・ちがう、な」

 さみしい、のだと思う。
 私の恋人である美風藍がこんなにたくさんテレビに出るようになったのは、ここ数年の話だ。さらにはこんな大がかりなカウントダウンライブをやるのは今年が初めてで。こんなふうになるまでは、彼は毎年私と年を越してくれていたから。
 ファンにとられちゃったなぁ。もちろん私もファンではあるのだけれど。
 さみしいと自覚してしまえばどんどん心は冷えていく。私はマグカップに残ったココアをひといきに飲み干して、リビングの電気を消すと寝室へと引っ込んだ。
 ベッドがいつもより広い。それだけで、涙が出そうになった。



「・・・・・・ねえ、」

 寝たの?
 ひそやかな声が響いてきて、私の意識は浮上した。重たい瞼を持ち上げれば目の前にはぼんやりとした輪郭が見える。

「藍、くん・・・・・・?」
「・・・・・・あ、ごめん。起こした?」
「ん、んん・・・・・・おはよ」
「おはよ、じゃないよ。まだ夜中。起こしてごめん」

 頬にひやりとした手が滑る。珍しく申し訳なさそうに呟いた藍君は、当たり前だけどもうライブの衣装を着ていない。寝ぼけた頭で、『アイドルの藍君』が『私の藍君』に戻ったのだと判断した私は、頬に添えられた手をぐいっと引っ張った。

「っ、わ」
「へへ、あいくんだ・・・・・・」
「ちょっと、危ないでしょ。寝ぼけてるの?」
「ねぼけてない、よ・・・・・・さみしかっただけ・・・・・・」
「・・・・・・さみしかった、の?」

 へぇ?

 すこし嬉しそうな声と一緒に、私の唇にキスが降ってきた。それを甘受した私は、その心地よさにまた微睡みの中に引きずり込まれていく。

「・・・・・・ねぇ、寝ちゃうの?」
「ん、ねる・・・・・・あいくん、と」
「・・・・・・っ、ちょっと」

 このじょうたいでねるとかばかなんじゃないの。
 藍君が何か言っているけれど、私だけの藍君に戻った美風藍の腕をしっかり抱きしめて、私の意識はまた底のほうにずぶずぶと沈んでいくから、言葉をの意味を正しく理解することはできなかった。
 だから藍君が私の頭を撫でながら「生殺しじゃん」とため息をつくことも、そのあとすこしだけ微笑んだことも、私は知らないのだった。


夢がいとしい午前二時


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