揺らめく涙の深海に 「私、……多分政宗もだけど、小十郎がいなくなったら生きていけないかもしれないな」 あの日、冗談ぽく言ってみたけれど、私は本気だったよ。 「はは、お前と政宗様を残して何処かへ消えるなんて有り得ねえんだ、変なこというんじゃねえよ」 そう言って笑ったあなたに、私は泣きたくなったんだ。 安堵したの。 あなたは何処にも行かない、私の、私達のそばに居てくれるんだ。 そう思ったから。 私がこの世界に訳もわからないままやって来たあのとき、あなたも、政宗も、お城の皆も、私を疑って、冷たい目をしてた。 毎日がつらくて、悲しくて、苦しくて、いっそ、死んでしまいたいと思った日も、正直あったんだ。 だけどね、三日月が明るいあの夜に、あなたが言ってくれた言葉が、今、私がここに存在する理由なの。 「俺は、お前を信じるから。だから、この世界で生きてみねえか。」 なのに、どうしてなの。 なんで目を開けてくれないの。 あなたの世界に映らない私なんて、生きていないも同然なんだよ? 何処にも行かないんでしょう? そばに居てくれるんでしょう? なら、今すぐその目を開けて。 そして私に優しく笑んでよ。 「…………うそつき」 目の前に、静かに横たえられたあなたは、どうにも眠っているようにしか見えない。 もう、"ここ"に、あなたがいないだなんて、信じられるわけないよ。 視界が滲んで、何も見えない。 いやだ、小十郎、いやだよ、 しんじゃいやだ。 「…生きていけないよ、」 ぽつりと呟いた声は、ひどく掠れていた。 あなたがいない世界での生き方なんて、とうの昔に忘れてしまった。 そっと、彼の手のひらを、自分の頬に当ててみる。 「……冷たい、小十郎…」 冷たい。 まるで、深い深い海の中みたいに。 真っ暗な海の中みたいに。 恐いよ、ねえ、 私が、今すぐ、その海に飛び込んで、 あなたの身体を暖めてあげるね。 「………今行くよ、だから、」 笑顔で、待ってて欲しいな。 揺らめく涙の深海に (視界が掠れる、ああ、もうすぐ会えるんだね) |