守が今日学校を休んだと聞いたのは今朝のHR後、木野さんとすれ違った時だった。守が休み。あの毎日元気いっぱいのサッカーバカの守が。私は心配になって学校帰り、守の家に寄った。おばさんは喜んで私を家に通してくれた。おばさんの様子を見ると、それほど深刻な事態ではなさそうだけれどやっぱり守の事が心配だった。私は守の部屋のドアを久しぶりに開けた。


ゴーーール!
リーヨ!


「おぉ!名前!」


守はベッドに寝転んでゲームをしていた。私はホッと胸を撫で下ろす。


「お見舞いきたんだけど、大丈夫そうだね」
「あぁ!来てくれてありがとな!」


ゴーーール!
リーヨ!


「今朝さ、ちょっと熱あって母ちゃんに無理やり休まされたんだ」
「それが正解だよ」
「でもさ、おかげで暇で暇でしょうがなかったんだ!」


ゴーーール!
リーヨ!


「だからゲームばっかりしてたと」
「そー!」


ゴーーール!
リーヨ!


会話が止むと守はゲームに熱中し始めた。いや、私が入ってきた時から熱中してたかな。ずっとゲームの画面見てたし。ちょっと、悲しい。
私はさりげなくベッドに腰掛ける。守のベッドはシングルのわりに広く感じるような気がする。守、小さいしね。子どもの時から私は守より大きかった。
鞄を床に置いて体を横にする。ちょうど、守のお腹の横に頭がきた。精神的にも頭にきていたので、ちょっとした意地悪をしたくなった。私は守のお腹に頭を乗せてみた。


ゴーーール!
リーヨ!


別段何も言われなかった。守は変わらずゲームを続けた。なんだか、悔しい。私は守に乗せた頭に体重をかけてみた。別段何も言われなかった。やっぱり、悔しい。私は守のお腹にうつ伏せになってみた。別段何も言われなかった。ものすごく、悔しい。もう、お腹こちょこちょしてやろうかな。守はここが弱いんだ。
しかし、手を伸ばしたその時、私の体はすごい力で引っ張られていた。あれれ。


「次は俺の番!」


私はどうやら守に引っ張られたみたいだ。脇に守の手がしっかりとある。いつのまにやらゲームは守の手には無かった。私の頭が枕に乗っかるとその手は離された。


「同じ枕で寝るなんて何年ぶりだろ」
「う〜ん、十年いくかいかないかじゃないか?」
「もうそんな齢か」
「早いよな」


守が小さく笑う。いつものダイナミックな笑いじゃないから妙に大人っぽく見えた。守のくせに。気に食わない。しかも、何だ。心臓がばくばくしている。ただ、守と寝ているだけなのに。顔が近いからかな。守のくせに私をどきどきさせるなんて生意気だ。
私は目を反らした。


「名前のほっぺ、ぷにぷにだな!」
「う、わ」


私が目を反らしていたばっかりに、守から襲撃にあった。守が私の頬に手を伸ばし、ぷにぷにと指先でそこを揉んでいたのである。湧いてきた怒りと恥ずかしさに、私は仕返しを決行する事にした。因みに後者の方が度合いとしては強い。


「守だってぷにぷにだろ!」


私は守の頬を引っ掴んだ。可哀想だからあんまり強くしないようにしたつもりだったけど勢い余ったらしく、守は「いっ」と濁った声を洩らした。「あっ、ごめん」私も咄嗟に指先に入れた力を解く。すると気付いた。守のほっぺはあまり柔らかくは、ない。


「あれ」
「ははっ、あんまやわらかくないだろ」
「うん。あれれどうしたの守」
「う〜ん、成長?」


成長。その言葉が頭の中にこびりついたような感覚を覚える。ふと足元に目を向ければ、守の方が私より足が伸びていた。ショックを受けたが、視線を戻す過程で気付いた。守は全体的に身体が大きくなっていたのだ。最近、あまり接点がなかったから気がつかなかったみたいだ。知らず知らずの内、守は逞しくなっていたのだ。
興味関心感心興味、いろんな感情が入り交じって私は守の胸の辺りを見つめた。そうしていると、守が突拍子もない事を言い始めた。


「ほら、抱きしめてみろよ」


両手を差し出して、どんと来いのポーズ。どういう事なんだと思うより先に、私は衝動的に守を抱きしめていた。大きくなった守を誰よりも早く感じたかったからだと思う。ぎゅっと抱きしめると驚いた。守の身体は硬かった。


「全然違う、昔と」
「だろ?」


私は守の胸に顔を埋めているから、守の顔は見えないけどその声色から、きっと口元には笑みをたたえているだろうと思った。想像すると胸がぎゅっと掴まれた気がした。


「それにしても、名前はやわらかいな!」


守が私の背中に手を回して言った一言に、私は大きく心を揺さ振られた。もう、ほんと、守のくせに。どうしてこんなに、私の心臓をいじめるんだ。
なぜだか私にはもう大きくなった守を大いに楽しむ事は出来なくなっていた。興味関心以前の問題だ。胸の苦しみに表情が歪む。こんなに近くにいるのに、守がどこか遠くにいるような気がしてならなかった。


「ん?風邪ならもう治ったから移らないと思うぞ」


そういうことじゃないよ守。
十数年(とちょっと)来の恋に気付かないふりをしていたのに、絶対にこの恋が実る事はないのに、今日で封じ込めていたその気持ちを曝け出した。

私は守が好きだ。

私は今この瞬間を噛みしめようと忘れられないくらいに守を抱きしめた。時折情けない声を上げるのも聞こえなくなるほどに。



この状況下から守が抜け出せたきっかけは、おばさんの「ご飯よー」の一言だった。守はすぐに起き上がって、ベッドに転がった私に言う「名前も食べていけよ!」守は部屋から出ていった。「先行ってる!」私はその背中を見て思う。守の家で夕飯なんて久しぶりだな、嬉しいな。



でもどんな顔して食卓に行けばいいだろう。
だって、さっき見た守の横顔がちょっぴり赤みを帯びていたから、私はどういう気持ちでいればいいのかわからなかったのである。

もしかしたら、
守も。









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