名前と円堂は先週行った数学のテストで赤点を取ったため、課題プリントがどっさりと出された。
二人はその〆切が今日だという。
豪炎寺と鬼道はてっきりそれを提出するだけだと思っていたら、そそくさと二人が机に課題を広げ始めた。
豪炎寺と鬼道は目を見合せ、呆れ果てた。

「まさかとは思うが……」

「これが現実なんだよ……鬼道」

「自業自得だな」

「うわあああ!もう絶対終わらないよ!どうしよう円堂!」

「あー、さっぱりわかんねえや!」

慌てふためく名前とは対照的に清々しい笑顔を浮かべている円堂。
鬼道は溜め息をついた。

「お前らはなんでいつもこうなんだ……」

豪炎寺は鬼道の下がった肩を叩いた。
そして近くの席の椅子に座り鬼道にもそれを促した。

「教えてやるから頑張れ」

その言葉で名前の表情は良い方にがらりと変わった。

「豪炎寺ぃ〜ありがとう〜!」

「おーしっ!全然わかんねえけど頑張るぞ!」

名前は涙目になりながらも豪炎寺に頭を下げた。
円堂は両手をぶんぶん振り回して気合いを入れている。
鬼道もそれこそ口には出さなかったが椅子に逆向きに座り、教える気は満々のようだ。

それからお馬鹿な二人は自分の力で取り組んだが、すぐに勢いは終息した。

「おい、手を動かせ」

「うぅ、わかんないよぉ」

「だぁああ!もう頭が割れそうだ!」

また目に涙を浮かべる名前。それは今にも零れ落ちてしまいそうだった。
一方円堂は大げさに頭を抱えている。

「教えてやるから泣くな」

「うぅぅ、ありがとう豪炎寺」

「円堂、顔を上げろ」

「はぁい……」

豪炎寺と鬼道は、的確且つ効率的に二人のわからないところをどんどん消滅させていった。
しかし、課題が終盤に差し掛かりあともう少しというところで二人の集中力は切れてしまった。
名前はうとうとと眠気に誘われ、円堂は鉛筆を転がし始めた。
眉間に皺を寄せた鬼道は円堂と名前の頭を叩いて喝を入れた。
それで円堂は再開したが、名前には全くそれが効いておらず余程強い睡魔のようで、頭をかくんかくんと上下させている。
今一度深い皺を眉間に刻むと、鬼道は教科書を手に取りそれを名前の頭に勢いよく振り下ろした。
ベシッといい音が鳴る。

「いたっ!」

「寝るな馬鹿」

「ほんとに馬鹿になっちゃうよぉ」

「元からだろう」

「うぅ、ひどいよぅ」

名前は頭を押さえてまたうるうると目を潤ませた。
今度こと涙が零れるんじゃないかと思うほどに。
豪炎寺はそれを見兼ねて、名前の頭を撫でた。
すると名前は気持ちよさそうにし、にこにこ顔に変わった。
豪炎寺も心なしか表情が柔らかだ。

「全く、お前はいつも名前を甘やかしすぎだ」

「それはお互い様だろ?」

「なんだと?」

「自分でわかってないだけさ」

鬼道は豪炎寺に対して鼻であしらい、顔を反らした。
その頬がほんの少しだけ赤く染まっていたのを豪炎寺は見抜いていて、ふっと小さく笑った。

「と、とにかくだ!叩かれたくなかったら名前は続きをやれ!」

「は、はい!」

無事に名前の手はせかせかと動き始めた。





「ふぃー!終わったー!!」

名前と円堂は二人声を合わせて言った。
名前は机にうなだれて突っ伏し、円堂は伸びをした後がくりと椅子にふんぞりかえった。
二人ともかなりの疲れが見て取れた。

「お疲れ、よく頑張ったな」

「ありがとう豪炎寺ー」

「鬼道もありがとなー」

鬼道はふん、と鼻で笑ってから椅子から腰を上げて言った。

「帰りに肉まんでも奢ってやろう」

「まじ!?」

「ホント!?」

さっきまでの疲労に満ち満ちた表情とはうってかわって、名前は顔を上げ、円堂と一緒に目をキラキラ輝かせた。
引きのばされた口角からは今にもよだれが垂れそうだった。

「なに、俺からのご褒美だ」

「ありがとう鬼道ー!」

わいわい、と嬉しそうに騒ぐ二人の傍ら、豪炎寺は鬼道に目を向けた。
鬼道は嬉しそうにしている二人を見て満足気に笑っていた。かなり上機嫌なようだ。

「ふっ、ほら言っただろ、鬼道の方が甘やかしているじゃないか」

そういうと、今まで弧を描いていた口が一気にへの字へと変貌した。
眉間にもくっきりと深い皺が刻み込まれる。

「は、俺は円堂にも奢るつもりだ、全く名前を甘やかしているなんて事には繋がらない」

「頑固な奴だな、お前は」

「だ、だまれ!」

豪炎寺はそれ以上言うと鬼道が怒り出しそうだったので(もう怒っているかもしれないが)、言われた通り黙った。
また鬼道の頬が紅潮している。
それが豪炎寺には面白いようで彼はクスリと笑った。
鬼道は照れ隠しのように大声で二人に「帰るぞ」と言い、課題を提出しに行った。



辺りはもう暗くなっていたがコンビニに寄り、鬼道は円堂と名前と豪炎寺に肉まんを買った。
勿論自分の分も忘れずに。
肉まん四つ分の値段なんて中学生にとっては大金だ。
財閥の息子の彼だから、成せる技である。

名前と円堂は鬼道を神様を拝むようにお礼をした。

一行は横に並んで肉まんを貪りつつ帰路に就いていた。

円堂と名前は肉まんによってテンションMAXである。
「あっつ!うめええええ!」
「あちっ!おいしいいい!」

騒ぐ二人を見守る二人は二人で静かに会話をしていた。

「悪いな、俺まで」

「ふん、お前が変な事いうからだ」

「実は俺はピザまん派なんだがな」

「肉まん返せ」

それを聞き付けた名前が豪炎寺にしがみついた。
既に名前の手に肉まんは無かった。

「えっ豪炎寺肉まんいらないの?肉まん!」

「お前はハイエナか」

「肉まん!」

「う…っ、名前苦しいんだが」

ぎゅうぎゅう豪炎寺を抱きしめている名前を見た瞬間、なんとも言いがたい痛みが鬼道の下腹部辺りに走った。
その痛みがなんなのか鬼道にはわからなかったが、豪炎寺を助けるべく名前の頭を軽くはたこうとした。
しかしそれを寸前で止めた。

「ほら、そんなに食べたいなら食え」

鬼道はまだ一口しか食べていない肉まんを半分にした。
名前はそれを見ると、大きな瞳を煌めかせて鬼道に飛びついた。

「うわっ」

「鬼道おおおお!くれるの?それ!くれるの?肉まん!くれるの?」

「やっ、やるから離れろ…!」

「わーい!」

きつく抱きしめられたお腹は苦しいはずなのに、なぜか痛みはどこかへ吹き飛んだ。
鬼道はますます困惑した。

一方で円堂は「名前だけずるいー!」と声を上げていた。
鬼道はそれを無視して肉まん(勿論口を付けていない方)を名前に与えた。
名前はおいしそうにそれをぺろりと平らげ満面の笑み。
豪炎寺は鬼道の真っ赤になった顔を見逃さなかった。(名前に抱きしめられたからだと豪炎寺は推測した)
それはもう触ったら肉まんより遥かに熱いんじゃないかと思わせるくらいだった。

それを見て豪炎寺は口を開く。

「ほら、やっぱり甘い」

「………」

今回の鬼道は何も言えず押し黙ってしまった。
豪炎寺は鬼道の背中をぽんと叩いた。
そして鬼道に耳打ちをした。「いい加減好きって言ったらどうだ?」

するとみるみる内に鬼道の耳が真っ赤になっていき、わなわなと唇を震わせた。

「ば、ばかやろう!誰がそんな事…!第一なんで俺が名前の事を…」

そこで言葉を詰まらせた鬼道はまた一段と顔を赤くした。
豪炎寺はそれを見て、やっと気付いたか、と安心したが、それと同時になぜか罪悪感も感じてきた。
その罪悪感の意味を手繰ってみる。
すると意外にも早くその意外が判明した。

その人が好きだと自覚するという事は
その瞬間、片想いが始まる事になる。
片想いはほろ苦く辛いものなのだ───

意味はそれだった。
すまない、と豪炎寺は鬼道に心の中で謝った。



「なんか呼んだ?」

円堂との下らない話に夢中になっているように見えて、名前の耳にはその会話が届いていたようで円堂と一緒にひょっこりと顔を鬼道へと向けた。
鬼道は名前と目が合ったがすぐさま顔ごと反らした。

「鬼道ー?」

「き、気安く呼ぶなっ!」

「えー、さっきまで普通に呼んでたのに」

「なんで」と言いたげな視線を鬼道にぶつけようとするが、鬼道は変わらずそっぽを向いている。
名前は痺れを切らし鬼道の頬をつんつんつっついた。
すぐに鬼道は間合いを取って頬を手で押さえた。
隠しているようにも見てとれる。

「鬼道くんはご機嫌ななめみたいだねー、つんつん」

「さ、さわるな!」

「ははは、鬼道顔赤い」

円堂も一緒になって「珍しいな!」だとか言って笑っていた。
こういう場合、指摘されるともっと顔が熱くなるのはなぜだろう、と鬼道は考えながら俯いた。

豪炎寺は流石にいたたまれなくなって、鬼道になにかできる事はないかと考えを巡らせた。
そしてある事を思いつく。

「鬼道、名前を家まで送ってやれ」

「なっ!なんで俺が…!」

「名前んちに一番近いのはお前だろ」

「それはそうだが……」

豪炎寺は目を細めながら鬼道に目配せすると、鬼道は悶々と頭の中で葛藤を繰り返した。

名前を送るという事は、名前とふたりきりになるという事だ。
何を話せばいいんだ?
どうやって顔を合わせばいいんだ?
しかし、名前と一緒にいたいという強い気持ちが鬼道にはあった───

鬼道は決意を固める。

「まぁ、送ってやらんこともない」

「やったぁ!」

「かっ、勘違いするなよ、もうだいぶ暗いからだからな」

「わかってるってぇ」

「鬼道と一緒なら心強いよ!」という名前の言葉にまた鬼道は赤面していた。



とうとう俺等の中でも
カップル誕生か?
豪炎寺はそんなことを思い胸をあたたかくしていた。



(20110131)









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