夕香ちゃんの髪が乾かし終わって、私の髪を乾かしながらまた夕香ちゃんと二人でテレビを見ていた。 ガチャリとドアの開く音がしたから修也だと思って振り向くとその人は修也ではなかった。 いや、修也なんだけれどいつもと違いすぎて別人、ていうかまず、 「修也服着てー!!」 修也はパンツを履いているだけであとは何も着ておらず、いつものツンツンに立たせた髪が下ろされていた。 髪はかっこいいからいいとして(ギャップにときめいた)、服は着よう。 こっちの身が持たない。 「おにいちゃんはいつもこうだよ」 「いつもそうなの!?」 「あぁ、風呂上がりは暑いからな」 「さむくなっちゃうまえにパジャマきてね、おにいちゃん!」 「わかったよ、夕香」 修也の胸元には夕香ちゃんからもらったペンダントがキラリと誇らしげに光っていた。 私は目線をどこに向けたらいいのかわからず何も言えなくなってしまった。 脳裏に修也の鎖骨と鍛え上げられた腕と厚い胸板がちらつく。どきどきが治まらない。絶対あの割れた腹筋からはフェロモンが出てるとしか思えない。 俯き加減でボーッとしていると、いつのまにかパジャマ姿の修也がまだ濡れていた私の髪をドライヤーで乾かし始めた。 「あ、ありがとう、修也はいいの?」 「自然乾燥だ」 流石男の子。 私の髪も乾いたことなので三人でトランプをした。 神経衰弱、ババ抜き、七並べ…… あっという間に九時を過ぎ、夕香ちゃんが目を擦り始めた。 「眠いんだろ?夕香」 「ねむくないもん、まだトランプやるもん」 口ではそう言いつつ今にも寝そうな夕香ちゃん。 トランプがよほど楽しかったんだろう。 それはそれは楽しんでくれてなりよりだ。 修也が夕香ちゃんを夕香ちゃんの部屋へと連れていき、ベッドに寝かせて頭を優しく何度か撫でると、すぐに夕香ちゃんは可愛らしい寝息を立てて寝始めた。 「もう寝ちゃった、可愛い」 「そうだな」 私と修也は夕香ちゃんを起こさないように小さな声で言葉を交わし部屋を出た。 するとあんな可愛い寝顔を見たら私もなんだか眠くなってしまった。 そして大きなあくび。 「なんだ、もう眠いのか」 「んー、まだまだ」 「眠いんだろ?」 「ん」 「お前も夕香と一緒だな」 私は瞼を閉じたり開いたりして眠気を覚まそうとしたが、そんなの意味がなかった。 修也はそんな私を見計らい私の手を引いた。 向かった先は修也の部屋だった。 私は修也のベッドを見て言った。 「あれ?修也も寝るの?私どこで寝ればいい?」 「………」 なにも言わない修也の顔を正面から覗き込んだ。 乾いた髪がだんだん上昇してきているが前髪は垂れたまま。 言葉が出ないほどにかっこいい、じーっと見続けているとやっと修也が口を開いた。しかし声が小さくて聞きとれない。 「……いいか?」 「え、ごめん聞こえなかった」 「………」 「なーに?」 私が首をかしげると修也はそっぽを向いて言った。 「一緒のベッドでいいか?」 「………、ええぇぇぇ!」 「だめか?」 「だめじゃないけど恥ずかしいよ」 「俺は一緒に寝たい」 「え、ええぇぇ」 どうやら私は究極の選択を強いられているようだ。 断る理由も無いしむしろ私も修也のことは大好きだから一緒に寝てもいいかなという気持ちはあった。 でもやっぱり恥ずかしい。 「あっ今日見たテレビでさ…」 「話をそらすな」 「………、踏ん切りがつきません」 「お前の意志はどうなんだ?」 「……私も一緒に寝たいけど恥ずかしい」 言ってしまった! 本心を言ってしまった! 修也はあたふたしている私を見てニヤリと笑った。 「恥ずかしがる必要なんかないだろ」 すると、修也が私をいきなりお姫様だっこしてベッドに運んでいった。 「しゅしゅしゅ修也……!」 修也はベッドに私を優しく降ろすと同時に私の耳にキスをした。 思わずビクッとなりながらも私はふかふかのベッドの端に寄る。 修也もベッドに寝そべり布団をかける。 すると修也の匂いに囲まれているようでどきどきが最高潮。 しかも二人で寝ると案外ベッドが狭く感じ、顔も近い。 私はどうしていいのかわからず、今までの眠気も覚めそうな勢いだった。 修也がおもむろに口を開いた。 「名前、寒くないか」 「だ、だいじょぶ」 「俺は寒い」 私はなんとなく嫌な予感がした。 それが的中して、修也が電気を消したと同時に私に思い切り抱き付いてきた。 暗くなって顔が見えなくなっても緊張は解けずむしろもっと身体の強ばりが増した。 「ちょ……っ、修也!」 「あったかいな」 「そ、それはなによりだけどさぁ」 真っ暗な視界の中で感じるのは修也だけ。 首に修也の髪が当たってゾクッとした。 もう体温が灼熱状態。 「なんで今日こんなに積極的なの」 「今日は父さんもフクさんもいない」 「え、そんな理由なの」 「だから二人きりになれる」 「夕香ちゃんは?」 「夕香はまだ子供だからわからないだろ」 「そうかなぁ」 だんだん目が暗闇になれてきて、私は修也と超至近距離で目が合った。 すると修也が唇をついばむようなキスを一回した。 「とにかく俺はお前と一緒にいたかった、それだけだ」 そんなことを言われてしまえば、もう私に為す術は無い。 修也が首筋を吸って私に跡をつける。 私は声を殺してそれに耐える。 「首も弱いんだな」 修也の吐息が耳にかかると我慢できなくなって私の口から変な声が漏れた。 「あ、んぅ、しゅうやぁ」 「可愛い」 修也がリップ音を立てながら何度も何度もキスしてきた。 それが止むと今度は舌が入ってくるような深いキス。 私は必死に修也のそれを自分のそれで追いかけた。 毎回毎回よくわからない快感が私の胸を刺すような感覚にさせる。 意識が遠のき始める寸前、修也が唇を離した。 酸欠気味の私は肩を震わせて息をした。 「大丈夫か?」 「う、うん」 「無理させてごめんな」 修也が私の頬に手を添える。 「へいきだよ、……修也の、よかった」 「そうか」 修也が笑って、また私に唇同士を重ねた。 ちゅ、と音が鳴る。 そして、修也が私をぎゅっと抱きしめた。 胸の奥の方まで抱きしめられているような気がした。 「じゃあ、おやすみな」 「うん、おやすみ」 翌日朝、夕香ちゃんの声で目覚めると最高の恥ずかしさを味わった。 「おにいちゃんたちラブラブだね!」 でも幸せを噛みしめたのも事実だから、 私達は夕香ちゃんに隠れて布団の中でキスをした。 (20110114) |