拍手閑話
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2016.7.27 【手に入れたもの】拍手閑話
■ 木村 佳奈の憂鬱 ■
ある日従姉妹が遊びにきた。
「うっわ! 佳奈の男友達イケメン揃いね!」
その従姉妹が去年の夏に行った海水浴の写真を眺めて叫び出した。
そこには高倉 昴、中島 昌斗、橋田 太一、山本 正也の四人の同級生の姿が写っている。
「ちょっと、どの子か紹介してよ!」
冗談混じりにそんなことを言う。
「あー。駄目よ、そいつら女の子に興味ないから」
「…………何それ、詳しく聞かせて」
従姉妹の目がなんか怖い。
「この中島と、この高倉は恋人。で、この橋田はうちの吹奏楽部の可愛い後輩とお付き合い中。あ、その後輩も男ね。そんで、この山本は──」
そこまで言って、従姉妹に視線を向けて驚愕した。
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
従姉妹が盛大に鼻血を噴いていた。
「その可愛い後輩とやらの写真はないの?」
従姉妹が鼻血をティッシュで押さえながら、聞いてくる。息が荒く、目も血走っていて怖い。
気圧されるままに、スマホの画像フォルダを開いて件の可愛い後輩──森崎 向日葵の写メを見せた。
そして、従姉妹は恍惚と悶え始めた。
何、この状況……。
一体彼女に何が起こったのだ?
悶える従姉妹をどうすればいいのかもわからず、暫し放置しているとようやくして落ち着きを取り戻してくれた。
そして、落ち着いた従姉妹から「腐女子なの」とカミングアウトされた。
フジョシ……婦女子?
だから何なのだ? と、木村の疑問が深まっただけだった。
息巻く従姉妹に、この四人──というよりも、それぞれの恋人とのツーショット──のラブラブ写真の入手と、できるなら下事情などの情報の入手を懇願された。
なぜ、好き好んでこいつらの下事情を聞き出さなければならないのだ。
できればそんなこと知りたくない。向こうから話してきたとしても殴って黙らせたいくらいに聞きたくない情報だ。
写真にしたってそうだ。何が愉しくて、男同士のイチャイチャ写真を集めなければならないと言うのだ。男同士でなくとも他人のイチャイチャなど見たくもない。
「そうそう。この間言ってたライブのチケットゲットしたのよ」
従姉妹が取り出した餌にまんまと引っかかってしまったのは言うまでもない。
それから数日。
安請け合いしてしまった自分を悔やんだ。
中島に尋ねると、なぜそんなことを知りたいのだと訝しまれながらも淡々と語る下事情の事実にはこちらが赤面してしまう。続いて高倉に尋ねると、同じく訝しみながらも砂を吐くほどに甘々な話をされ「リア充爆ぜろ!」と何度も心で唱えてしまった。
橋田に聞いたのは間違いであったと、ものの数秒で後悔した。
放送禁止用語の連発で、さらにこちらの羞恥を煽る物言いには本気で泣きそうになった。
あの変態は抹殺すべきだと心底思った。
その仕返しというわけではないが、森崎に同じように聞いてみると、純真で初心な彼は目に見えてあたふたと慌てふためき、こちらの嗜虐心を面白いくらいに擽ってくれるものだから少し調子に乗ってしまった。
頬を染めて涙目でこちらを睨まれ、はっとした。
変なスイッチが入ってしまっていた。これではあの変態橋田と同種になってしまうと、慌てて正気を取り戻した。
山本については……まあ、別にいいかと聞くのはやめておいた。
なんかもう胸がいっぱいだったのだ。
そんなこんなで、また従姉妹が遊びにきて、手に入れた情報を伝え、ついでに写メも進呈すると彼女はまた鼻血を噴きながら悶えていた。
チケットの報酬分はきちんと返せたであろうと、ほっと胸を撫で下ろした。
──が、まだお役御免にはならなかった。
またしても、餌に釣られてしまったのだ。
自分の浅慮さにほとほと呆れてしまいそうになった。
そうして、木村 佳奈もまた徐々に侵食され……りっぱに腐るのはそう遠くないお話。
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それではまた… |ω‘●)ノ