蝋燭の灯が、痩せた畳を照らす
波打つ萩を猪が食む
まっかな牡丹に蝶が伏す
終ぞ揃わぬ紅葉に子鹿が逃げて
手許に残るカスばかり
盃あれど興が無ければ傾かぬ
月輝けど、明くる日無ければ愛でられぬ
俺は洗い立てのシャツにアイロンを乗せる
白を縦横無尽に走る波は熱に脅かされて、
跡形もなくどこかに消える
仄かに温もりが残る袖に腕を通し、
蝶ネクタイを結う
背筋を伸ばし、顎をひいて
跳ねる泥に下ろしたての革靴が染まる
青苔を踏まぬように慎重に門を潜り、
泡銭でひとつ、鈴虫から小さな心臓を買った
今日を生きていける分の鼓動を
酒と、盃をふたつ用意して月とともに宵を待つ
明日、例えば太陽が昇らずとも
溢れても暗闇にしがみついて、星は零れない