「これは…どうするべき…?」
見廻組局長室の中の机の上で突っ伏し寝ている佐々木さんを見つけて私は思わずそうつぶやいた。
たまたま早く仕事が終わって、本当にたまたま近藤さんに頼まれたものを渡しに来ただけなんだけど。
見事に、寝てる。
寝顔とか見たことないし。
あんまり顔見えないけど寝ている姿ってのは想像できなかった分すごいなんか…ソワソワする。
だって私が起きるとすでに起きてて私が寝るときゃまだ起きているから、本当に想像つかなかった。
いつも眠たげではあるけども。
溜まってたろう仕事で寝ていなかったのか。
髪の毛も少し乱れてる。片眼鏡ができるだけあって彫りが深い。閉じられた目と弛緩した顔にいつもの面影はあまりない。
けどそれよりなによりも珍しいのが、
佐々木さんの手から、
ケータイが…離れてる
、ってこと…!!
これは…!!
たとえ天変地異が起ころうともこの人がケータイを手放すことはないと思っていたのに…!!
手放してるっても15センチほどの距離だけど。そんでもね。
い、今ならこのケータイの中身を見ることもできるわけで…。
いや流石にそりゃ人としてダメだろ…
いや、でも弱み握ってこいって言われてるんだし…
いやいやいやバレたら確実にアドレス帳どころかこの世から抹消される…
でもでもでも仕事だしなあ…!
心の中の葛藤がすごい。
実際この人のメールの頻度はすごいから何かしらの情報は掴めるだろう。
私の本性を暴くための罠の可能性もあるが…。
呼吸の頻度と気の抜けきった無防備な姿は寝たふりでは到底再現できないだろうリアリティだ。
…そうだ!あくまで仕事!仕事仕事仕事!
橋渡し役とかっても半分スパイだし?向こうも利用できるだけ利用しようみたいな感じだし?
私は覚悟を決めた。そうっとケータイに手を伸ばす。
空気が張りつめていく。
心臓の鼓動がうるさい。
少しずつ、距離を縮めていく。
あと、ちょっ、と…!
『〜♪〜〜♪』
「――――――――ッ!!!!」
ぎゃああああああ!
びっくりした!心臓口からはみ出るかと思った…。
なんで今メールくんの!?
半ば八つ当たりじみた手つきでケータイを開いた。
ぐ、副長からだし…!!
会議のことについてだったメールをテキトーにかえした。まだ心臓がバクバク言ってる。
私の決心かえせベタすぎんだよ土方コノヤロー。
もうケータイ覗く気なんて失せてしまった。
でも勿体ないなー。こんな事めっっったに無いのに………。
……………
…………………
………………………私は手の中のケータイを見てにんまりと笑った。
「ん…」
「…あ、おはよ佐々木さん」
「…私としたことが寝てしまいましたか。おや、苗字さん なぜ手を隠すんです」
「起こしちゃいけないと思ってたのに起きちゃうなんてさすがエリートだねェ。あ、それ近藤さんから」
「……なぜ、手を隠すんです」
「まだ寝てなよ。疲れてんでしょ?」
「………そうですね、少し休みます」
じゃ、おやすみ、と言って慌てて部屋を出た。
なんか感づかれたらしいが、それが何かまでは分かってないはず。
私はケータイをしっかりと握りしめ部屋に戻り朝を待ちわびた。
シャッターチャンス
(副長!これどうですか!寝顔!写真ですよ!これは恥ずかしいでしょう!)
(…近藤さん、とうとうストーカー予備校を開校するときが来たぜ)
(え?なに?呼んだ?)
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10000打記念企画。
みっふぃ様に捧げます。大変お待たせしました。
夢喰番外編で日常っぽいお話でした。
これは佐々木さんより誰より夢主本人が恥ずかしいですね…。