年度が変わり、なまえは二年生になった。
それを機に、廻栖野は美化委員長に、なまえは美化副委員長に昇格。クラスメートも順当に委員長や副委員長の座についたらしい。
そういう訳で、今日は新体制になる委員会の顔合わせである。
とは言っても、有能な彼らはどこかで接触を持っており、結果ほとんどが顔見知りではあるのだが。
そして今現在、彼らを悩ます出来事が一つ。
「…で、集まったは良いんだけどなあ…」
「"これ"。どうしますか委員長」
委員長、並びに任意で集まった副委員長達が取り囲む輪の中にいるのは、地べたに敷かれた布団と、自らの長い薄桃色の髪に埋もれて幸せそうに眠る選挙管理委員長、大刀洗斬子である。
はたらかないと書かれたアイマスクはぴったりと顔に張り付きその表情を読みとることは容易ではない。隠されていない口からは規則正しい寝息が吐かれている。
選挙管理委員の黒子数名が彼女を担ぎ上げて連れてきたまでは良かった。のだが。
電池が切れたのか、時々寝返りを打つばかりで一向に起きる気配がない。
「どうするも何も、起こさなければ始まらないだろう」
「選管だけ不参加ってわけにもいかないしねっ!」
「ったく、簡単に言ってくれるよな、テメーら」
百年以上の歴史を誇る箱庭学園でも史上初のダブル委員長となった米良孤呑と飯塚食人がそう言う中、モンスターチャイルドこと雲仙冥利は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
「この怠惰を起こすなんざ、並大抵のことじゃねえよ。多分大刀洗が起きる前に心が折れるぜ」
「じゃあどうするの?飯塚くんの言うとおり、選管だけ不参加って訳にはいかないじゃない」
「…しゃーねえ。融通呼んでくるか。どーせあいつのことだから『わたくしめは日陰の身ですのでそのような場には出席できません』とかなんとか言ってゴネるだろーけどな」
10歳児の雲仙に言われればおしまいである。
だがその場の全員が納得するくらいに彼は頑固だった。しかし、他に策がないのも事実。
仕方ないな、と言った雰囲気の中、違う反応を示す者が一人。
「え、長者原くん来てるの?」
ぱっ、と。
先ほどまで薄くたたえていたミステリアスな笑みが、一気に歳よりも幼い無邪気なものに変わる。
「来てるぜ。今日会ったからな」
明らかに嬉しそうな顔をするなまえに少々面食らいつつもクラスメートでもある雲仙は答えた。
良いも悪いも全て受け容れ、好き嫌いを作ることのないなまえの嬉しそうな、自ら誰かを欲する顔。
少なくともその場にいた全員が目を見張るくらいには異様な表情だった。
「…じゃあ悪いけど、なまえちゃんが呼んできてくれるかしら。委員長(ワタシタチ)が抜けるわけにはいかないし」
「…!うん。分かった」
廻栖野の言葉に楽しくてたまらないと言った幼い笑みを浮かべ、嬉々としてなまえは出て行った。
呆気にとられ取り残された全委員長と風紀副委員長は、お互いに顔を見合わせた。
「『鳴かぬ蛍が身を焦がす』
って事かしらね。あんなに嬉しそうにしちゃって」
「…の割には一向に進展する気配を見せないけれど…」
「好き嫌いのないなまえちゃんがあんなに楽しそうに、自分から会いに行く時点で分かり切ってるようなものなのにね」
ふう、とクラスメートたちはため息をついた。
他の者も何となく状況が読めたらしい。
「それを言ったら誰よりも公平で公正な長者原くんが気にかける時点でもう分かり切ってるよ〜〜〜」
突如、むくりと大刀洗は顔を上げ、更に違う意味でその場は呆気にとられた。
ただ一人雲仙は「やっとお目覚めかよ」と見透かしたように言った。実は先ほどのは狸寝入りであるが、大刀洗が意味もなく寝たふりなどするわけがないという確信があったので、彼は必要以上にすごんで見せたのである。
「え〜〜?だって〜長者原くんがすご〜くこの会議に出たそうだったからさ〜〜。ていうか、苗字さんに会いたそうだったから〜〜〜」
上げた顔を再びもぞもぞと布団に押し付けながらあっけらかんと大刀洗。
「そんなこと言ったってぅ私は心配よ、大刀洗。何時になったらくっつくんだか」
「ん〜〜。あの二人はとんでもなく頑固だからね〜。素直になるにはもう少し時間がかかるんじゃな〜〜〜〜い?」
特に十二町をはじめとするクラスメートは彼女が気がかりのようだったが、大刀洗はそれ以上は何処吹く風と知らん顔。
数分後、平身低頭で現れるだろう長者原をどうやってからかってやろうかと、これ以上なく楽しそうに剣呑さを滲ませた笑みを浮かべた。
支離滅裂ラブロマンス
(ま、私たちが心配する事じゃないだろ。だって結果は分かり切ってるんだから!)
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10000打記念企画。朝比奈様に捧げます。
タイトルはカカリア様より。ことわざは作者がないかと思われますので、十二町さんは言葉のみ引用、ということでお願いします。
本人たちが無意識なので、賢い周りの彼らがやきもきするという、構想にぴったりの素敵なリクエストありがとうございました。
にやにやしながら書かせていただきました。
これからも水面下をよろしくお願いします!