10000打記念企画 | ナノ


「全く。お酒に弱いくせに、なんだってこんなに飲んだんです」
「佐々木さんには分かららいでしょーねえー」
「…貴女もいい大人で、女性ならもっと分別を持ってください。」
「……………」

時刻は真夜中。
夜気が染み出す見廻組の廊下を、なまえを支える形で佐々木は歩いていた。
隊士であるなまえの顔は、普段からは想像もつかないほど赤く染まり、足元はおぼつかず、呂律も回っていない。そして何より人の話に聞く耳を持たない。
典型的な酔っ払いだ。

いつまでたってもなまえが帰ってこないと信女から連絡を受けた佐々木がたまたま近くの飲み屋で泥酔しかけているのを発見して連れ帰った次第である。

ぎしりぎしりと軋む廊下の音は静かな屯所によく響き渡る。

次の角を曲がれば彼女の部屋、という時に人の気配を感じ立ち止まると、やはりと言うべきか。信女が顔を出した。

「おかえり」
「…ただいま帰りました」

見つかって良かった、と呟く信女の声に反応したなまえはにへら、と赤い顔で笑いかけた。
すれ違う予定だった佐々木は少し苦い顔をしている。

「あ〜信女ちゃんだあ〜」
「…異三郎、これ、何?」
「酔っ払いです」
「…………」

信女も彼女のここまで酔った姿は見たことがなかったので少なからず驚く。酒に強くないのを自覚している彼女はむやみやたらと酒を煽るような真似はしないからだ。
しかしそんなことはお構いなしになまえは信女に絡み出した。

「今日も可愛いねー。いや、美人ん?分かんないけど可愛いーなあ」
「………」

無反応。それが信女の返した反応だった。
それが気にくわなかったのか「信女ちゃんひどいい〜」とかなんとか呂律の回っていない言葉のまま、「うー」と、ぐいっと顔を近づけ眼を閉じた。

「「!?」」

――瞬間、
バリッ!と。
首元の襟を掴んで、目にも留まらぬ速さで。
佐々木はなまえを信女から引っ剥がした。
ぐぇ、と叫んだなまえも含め、それはもう、一瞬の事だった。
表情は変わらないが、これほど佐々木に必死さと言うものが顔を出すなど、至極珍しい。


「……………」
「……………………」
「えほっ、えっほ」

なんとも言えない空気の中、しばし二人は無言を続け、
なまえが涙目で咽せる咳だけが奇妙に響いた。


「……それ、異三郎が作ったんだから異三郎がなんとかして」
「私が何かしたわけではありません」

「違う」

「…?」
「お酒に弱いなまえが、なんでそんなになるまで飲んだのか、考えてみたら?」
「…………」

そう言って音もなく闇に溶けるようにして信女は部屋へ帰っていった。

「………」

沈黙を先に破ったの信女の言葉は、めちゃくちゃだったはずだ。
けれどその破綻した論理に思い当たるフシが、佐々木にはあった。

確かに今日、少し厳しいことを言ってしまった。
だがあれは彼女の身を案じてのことで。自分も内心必死だったのだ、と言い訳めいた言葉が出てくるたびに首を絞めていくようだ。



「…心配してるんですから、もう少し安心させてくださいよ」
「…」

溜め息とともにそう吐き出せば、なまえはぽかんとした顔で佐々木を見上げた。

「…え、私思った以上に酔ってるろかなあ……佐々木さん、今の、もっかいいってください。」
「嫌です」
「うううやっぱり酔ってんら……」

目に見えてうなだれるなまえ。
それを見て、佐々木はふ、と常時結ばれている口元をゆるめた。

「貴女が明日起きても覚えていたら、いくらでも言ってあげます。だからもう今日は寝なさい」
「…ふぁーい」

なまえの部屋の前までなんとか連れてきて、夜闇の中、なまえはなんとか鍵を差し込み扉を開く。

「佐々木さんありがとうございました」
「いえ。礼には全く及びません。その代わり、全て忘れてください」

そうしないと、今日と同じような上司と部下のやりとりは二度とできない気がするのだが。

「嫌です!」


扉の隙間から覗いた、
今まで見たことの無い、
花が笑ったような極上の笑み。

それに数瞬気を取られ動けなかった不覚が示す事実に、佐々木は頭を抱えるのだった。


アルゴルの悪戯


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10000打記念企画。くろぶち様に捧げます。
タイトルはアルコールと語原が同じと言われる星より。

暴走する夢主を止めるさぶちゃんというよりも。
信女ちゃん相手でも妬いちゃうさぶちゃん…!
全力で書かせていただきましたがすてきなリクエストを生かしきれずにすみません(´・ω・`)

これからも管理人と水面下をよろしくお願いします。


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