捧げ物 | ナノ

ああそうだね、時代は変わるものだ。
だからと言ってこの変化を受け入れられるかどうかは、全く別の話だと思うわけでですね!

「何ぶつぶつ言ってるんですか、早く書類を取ってきてくださいよ」
「まだ仕事する気ですか!!そんな姿で!?」

噛みつくようにそう返した寝起き姿の私の先には、子供がいた。どこからどう見ても、最近寺子屋に通い始めたんです、という年頃の。
どこからどう見ても佐々木異三郎の幼少期にしか見えない子供が。
人の部屋着を勝手に着込んで図々しくちょこんと。

私はいつも通り7時に、見廻組屯所(女子寮)にて目を覚まし、起きた。何故か隣に子供がいた。
これ以上ないくらいに可愛いげのない子供になった、佐々木異三郎が、いた。
原因とかもう知らない。こんなことが度々起こる時代なんだから。天人の馬鹿。私は、私は江戸なら働き口があると思って上京してきたのに!!ああ、平和な水田風景が懐かしい…………………


「もうやだ…江戸から出たいよ」
「離しませんよ」
「離れろクソガキ可愛くねえよ。その言葉の下にどんなエグいもん隠してやがる」

短くなった腕で布団に座っている状態の私に抱きついてくるがすぐにひっぺがしてやる。恨めしそうにこちらを見てくるが知ったことか。

「智香さん知っていますか。これはれっきとした幼児虐待ですよ」
「幼児はそんな殺伐とした言葉知りません。」
「上司に使う言葉でもありません」
「なら上司らしくしましょうか。」
「照れ屋な所も可愛いとは思いますがドメスティックバイオレンスはいけません」
「ちょっと待ていつの間にそんな間柄になった。というか、いい加減部屋に戻ってくださいます?」

ちょっと語調を強めて言ってみた。
さっきからバタバタ屯所内がやかましいところを見ると幼児化した人間は一人や二人ではないようだ。私は無事なので特に興味を抱かないが。
なら、局長もそうなっていたところで驚かないだろう。私は非番なのだ。子供と遊ぶより色々としたいことがある。

「嫌ですよ。確実にのぶめさんにおもちゃにされます。」
「………………」

悲しいことに否定はできなかった。

「はあ。分かりましたよ。書類、持ってくればいいんでしょう?まあ、流石にこの格好じゃ部屋から出れないし着替えたいんで、あっち向いててくれますか」
「子供相手に何を恥ずかしがってるんですか」
「いっそ清々しいなオイ!!」

誰がそれでハイそうですかって納得するんだよ。めんどくせえ!!この人子供になってもめんどくせえええ!

「分かりましたよ。じゃあこの格好でいってきますから」
「待ってください。そんなあられもない格好を私以外に見せたくないです」
「なんなんだよもう!!」

あ、頭が痛い…………。仕事中はめちゃくちゃかっこいいのに。すっごい男らしいのに。さっと助けてくれたりして頼りがいがあるのに。

「……………じゃあ、大人しく仕事を諦めて私とゆっくりしますか?」
「仕方ありませんね」

まあ、昨今はギャップ萌えなる言葉も聞く時代だし、うん。時代の流れに逆らうのはよくないよね。私たちも明日を生きねば。空に憧れるよ。

「じゃあ、本で………ドゴオオオオオン!!


読みたかったが時間がなくて溜まっていた雑誌に手を伸ばそうとしたら、物凄い爆音がして。横を向いたら、部屋の風通しが最高によくなっていた。どうやら壁と壁は別の道を歩むことに決めたらしい。
ガラガラと瓦礫と煙の中からゆらりと立ち上がる影は随分小さい。敵襲か!?と一瞬身をこわばらせたが、靄がはれるにつれその人物が、自分のよく知る上司だということが判明した。

「の、 信女ちゃん……?」
「智香、遊んで」
「…………………………」

はい、と抱っこをねだるように両手を私に突き出して目を輝かせている。信女ちゃんは中身も幼児化してしまったのだろうか。何て考えていたら斜め下から猛烈な視線。私を裏切るんですか、とでも言いたげだ。私の非番はどこへいったのだろう。
日曜日のパパさんは、こんな気分なのだろうか。

そんなことを考えていたら涙が出たのは、綺麗に登ったお天道様が眩しかったせいだ。きっとそうなのだ。

滲んでく今日の景色


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50000を踏んでくださったくろからす様にささげます。大変お待たせしました・・・!
リクエストは「突然幼児化したサブちゃん」でした。
それ以外は好きなように書いてしまいました・・・。もし、おぼえていらっしゃればもらってやってください

タイトルはカカリア様より

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