捧げ物 | ナノ

○月×日。
今日は私の誕生日です。

朝からいろんな人にお祝いしてもらいました。
そして友達が企画してくれた誕生日パーティーの帰り

誘拐されました。



「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ」
「あれ?善良な一般市民を誘拐した警察がなにか言ってるのが聞こえるよ」
「"善良な一般市民"はパトカーに蹴りを入れたりしませんよ」
「警察だって、許可も同意もなく市民を連行する権利だってないはずだし!」
「…………エリートですから」
「アンタそれ言いたいだけだろ!!」

狭い車内に怒声がこだました。
けれども彼は――佐々木異三郎はこたえた様子など全く無い。微塵もない。
いつも通りの無表情だ。

一方記念すべき誕生日を迎えた私、宝生智香は動揺を隠しきれないでいた。
もちろんこの人のケータイ依存症っぷりとエリートと書いて変人と読む優秀さも理解不能さも、ある程度分かってはいたつもりなのだが。
つい3日ほど前からいつもは大量に送られてくるメールが徐々に減っていき、今日はまだ一通も送られてきていないという異常事態が発生していて、私はそれに気を揉んでいたのだが……………。
まあ現在、こんなことが出来るくらいにはなかなかにイカレている。つまりは全くいつも通りだ。

「ええ。いつも通りのエリートです」
「何でわかんのエリートじゃなくてエスパーに転職した方がいいんじゃない」
「エリートは職業ではありませんよ」

皮肉にしれっと真面目に返された。これじゃ私がバカみたいじゃないか。
夜のためによけいにそう見えるのかもしれないが、外の景色にあまり見覚えがない。そうか、私車に乗ってたんだっけ。音が静かで忘れそうだ。見た目は普通の見廻組のパトカーなのに、さすがエリート集団といったところか、やはり良い車なのだろう。

「…忙しかったんじゃないの?」
「ええ。ロクにメールできないくらいには」
「…………で、なんでいきなりこんな事になってんの」

心配してたのに、と心の中でぼやいた。貰ったプレゼントの包み紙が乾いた音を立てる。
目の前に彼が現れた瞬間、少しだけ期待してしまったのだ。まあ実際は車に詰め込まれたが。


「今日、誕生日なんでしょう」

「 え 」
「ちょっとした、サプライズですよ」
「え、いや、あの………」


なんでもなさそうに。
さも当たり前のように。
手渡された箱が信じられなくて彼と箱を目が何度も往復する。

「お、教えたっけ」
「いえ。アドレス帳に入ってました」

そういえばいつの間にか自分のケータイが彼の手中にあって一瞬で登録されて嵐のようにメールが来たんだっけ、と。あの出来事が随分遠くに感じられた。
私は送られてきたメールで登録しただけだから、メアドしか知らないのに。

なんか、ずるい。

「…ん?」

なんだか見覚えのある風景になってきた気がする。
そうだ。いつも使う道と反対側の道。

「つきましたよ」
「……ありがとー」

わざわざ遠回りをして時間を稼いでたいたのか、手の中にある箱を渡されてから余りに到着が早く感じられた。
それが私にコレを渡すために立てられた計算かもしれない、とか。いやいや。

「えーっと、わざわざ送ってくれて、どうも。逮捕されるとか勘違いして、車蹴ってすいません」
「いえ。渡しに行く途中に智香さんを見かけたので送っただけですから」
「…っ。あと、コレ、ありがとうございます」
「ええ。大したものではありませんが」

バタン、と車の戸がしまった。
エンジン音が闇に溶けだしていく。
間もなく彼を乗せた車も、また同じく融解した。

「な、なんだったんだあれは………」

バクバクと波打つ心臓を押さえつけて少し平静を取り戻そうとしたが無駄だった。
頭の中でもしかして、と
そんなバカな、が激しい闘争を繰り広げている。


ブブブブブ

と、本格的に頭を抱えようとした途端に震え出すケータイ。
取り出してみれば、まだ言われていなかったお祝いの言葉がいつものテンションと語調で綴られていて。

「〜〜っ!」

反則!反則だ!でもメールは保存しよう!と私は真っ赤になった手で騒々しく扉を開けた。

Happy Birthday!
(期待しちゃうぞ!勘違いするぞ!自惚れるぞ!)


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8888ヒットを踏んで下さった八重様に捧げます。
リクエストはヒロインの誕生日ネタでした。
随分と時間がかかってしまってすいませんでした…!

サブちゃんのメール弁慶がでてればな、と思います。
ありがとうございました!

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