8月某日。
私は佐々木さんと有名テーマパークのお化け屋敷にでかけました。
「いいじゃないですか。この夏は何かと大変ですから、こういうので涼しくなるのも」
「だからといってこの設備を維持するのに冷房を使ってちゃあんまり意味のない気がする」
「そこはビジネスとの兼ね合いですよ。新装開店で安いですし」
「いや、お財布のエコは願ったりかなったりなんだけどさ…」
それなりに並ぶ列の最後尾でそんな会話を交わしながら智香の顔はしぶっている。
「信じてないんだよね。死後の世界、とか」
「………」
「なにその顔。似合わないってか?知ってるよ」
「いえ、いつになくポエミーですね」
「結局馬鹿にしてんじゃん!…伝説の生き物!ってたぐいなら割と居るんじゃないかとは思ってるんだけど」
「…………奇遇ですね」
「嘘をつくな嘘を。本当なら目をそらすな。カメラマンと照明さんの後ろから入るひろしの何が悪い」
「誰もそこまで言ってませんよ」
そんな些細なやり取りをしている間に、いつの間にやら最後尾では無くなってしまっていた。ここで後ろの人を押しのけて帰る気にもならなかった。
しれっとした顔で、刀も腰に差さずに外出する恋人を横目でみつつ、ため息混じりに吐き出した。
「だって、殺した相手を殺そうとかって呪ってくるやつが本当にいるんなら、私も貴方も、今此処にいることのがよっぽど怪談だね」
「そう、ですね」
そう返した佐々木の懐が少し膨れているのは財布等ではない。彼の、愛用の銃。
そういうところがたち悪いってのよ、と智香は腰に差した刀を揺らして見せた。
「だから私は理由さえあれば案外簡単に人を殺せたりとか、そんな事しておいてそしらぬ顔でお化け屋敷に来るような、生きた人間が一番怖い」
「そうですか…。ところで聞きたいのですが、その手はなんです」
凛として物悲しく語る智香の手はその表情とは裏腹に―――佐々木の、着物を掴んでいた。
若干鬱陶しそうに着物を引っ張り返したが手はびくともしなかった。
「…私はさ、死後の世界は信じてない。だからお化けは怖くない」
「はい」
「わ、私は生きた人間が、一番、怖い」
あくまでも世間話。その体を頑なに崩さなかった。
「………」
「………………」
しばしの沈黙。
スタッフに「次の方どうぞー」と呼ばれればびくりと肩が震えたのを見逃してやるほど佐々木はお人好しではなかった。
「全く…。素直じゃないんですから」
「え?誰が言ったのそんなこと。お化け屋敷が怖いとかもしかしたら抱きつくかもしれないとかそんなToloveる的なこと誰も言ってないからただの空耳だから。佐々木さんがどーおしてもって言うんなら手ぐらい繋いでもいいけどっ」
「じゃあ、行きましょうか」
智香のお望み通りに手を繋いでやる、という風体で。しかし優しさとかそんなものとは無縁の手だ。
ほかの場所へと移動する選択肢を消す為なのだから。
だから、おずおずと握られたその手をふりほどけないように、握りしめながら足を進めた。
手を繋ごう
(あいつらは幽霊、幽霊…!!)
(…………)
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相互記念くろぶち様に捧げます。
この夏は本当に暑かったですね。
これからも水面下と管理人をよろしくお願いします。