捧げ物 | ナノ

暗闇にはえるオレンジの光。
がやがやと賑やかな人の波。

私は今、祭りに来ている。
ご丁寧に浴衣まで着て、そんなベタなことをするなんてつくづく恋は人を変えるものだと思う。

「考え事ですか」
「え?」
「恋人が隣に居るというのに、考え事ですか?」
「いや、そう思うならケータイしまえば?」

浴衣着て恋人と夏祭り。
しかしその相手が見廻組局長の佐々木異三郎と言うのが"ベタ"からかけ離れているが。
そして案の定、震えるケータイ。開けてみるとそこには


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構ってくれなくて寂しい(´・ω・`)

うさぎって寂しいと死んじゃうんだお☆
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「…………」

そう、書いてあって。
自分の口で言えや!と突っ込むのはもう諦めた。
…世間一般で唄われる甘い戯れと違う気が…するのではなく違うのだ。
しかも、一般男性と名家出身の警察のトップでスーパーエリートとかそういう違いでもない。

「ごめんね。たこ焼きでも食べようよ」
「はい」

とかなんとか言ってみても、やはりそんなベタな事をするくらいには私も楽しみにしていたわけで。
五分ほど並んで買ったたこ焼きを咀嚼しながら彼に手を引かれて人混みの中を歩く。
普段の洋装とは違う和装は、少しだけ彼を怪物から遠ざけている気がした。
やがて祭り会場を抜け、人混みを抜け、坂を上がった細い道にたどり着いた。

「もうそろそろ時間ですか」
「ぴったりだね。さすが」
「エリートですから」

そう彼が言った瞬間にぴゅるる〜っ、と音がして次の瞬間ドーンと音が腹に響くと同時に咲く火薬の花。
次から次に色とりどりの花が咲いては散ってゆく。
綺麗だ。照らされる夜空を見てそう思った。

「最初祭りに誘ったときは気乗りしてなかったのに、なんでこんないい場所知ってるの?」
「別に、行きたくなかったわけじゃないですよ。せっかく智香さんが誘ってくれたんですからね」
「…じゃあなんで?」
「少し厄介な顔見知りに邪魔されるのが予想できましたから」
「ふーん…」
「邪魔、されたくなかったんです」

確かに祭りの様子が一望できるここから見れば、明らかに祭りにかこつけた騒ぎがおこっているのがわかる。
この辺治安良くないし、心配してくれたのだろうか。

そう思って、ちら、と横を見れば見事に視線が絡み合って。
予想していなかった事態に急いで目線を逸らして、なんでもないふりをした。

「智香さん、顔赤いですよ」
「花火のせいだよ」
「…そう言うことにしてあげます」

見透かされた言葉に更に熱が上がったようだ。
恥ずかしさを紛らわすために、色気がないだなんだとからかわれるのを承知でたこ焼きを頬張った。


赤い赤い

(あれ、今のって花火じゃなくて爆発?)
(案の定…ですか)
(……もしかしなくても万屋さんじゃん)


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4000打記念、匿名さまより。
例によってテンションが低いですが、リクエストありがとうございました!
本人のみお持ち帰り可とさせていただきます

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