シャッフル! | ナノ




「卒業間近。委員会も引退したし大学にも合格したし…ってことで。お疲れ様でしたの鍋パーティ!」
箱庭学園からほど近い、鍋の食べ放題がそれなりの値段で食べられると人気の店に集結しているのは三年十組の生徒。廻栖野、十二町、呼子、晴日の計四人である。個室でゆっくりとほぼ時間制限が無いようなコースで鍋をつつくというのは高校生にしては聊か贅沢ではあるが、米良のバイト先の傘下グループの店だとかで、少しまけてもらっている。一体彼女がバイトながらにどんな働きをしたのかは分からないが、米良は米良だったのだろう。
舌鼓を一通りうち終わり、〆の雑炊をまったりといただいている最中である。
黒神めだかが理事長就任し、十三組生が今までの比ではないくらい登校するようになったが、委員会を引退した彼女らはせいぜい後輩の愚痴を聞く程度にしか関与していない。しかし未だに現役時代に築き上げた影響力は健在である。問題の方から次々と熱烈アプローチを受けては休まる暇がない。
彼女らは女子高生だ。受験に翻弄され、委員会を終えた後も忙しく過ごし中々友人と遊びに行くことも叶わなかったのだ。一年生の頃は委員会活動というあくまで仕事といった割とドライなスタンスで付き合っていたが三年もたてば仲のいいクラスメートである。

「もうすぐ卒業式って…ちょっと早すぎる気がするわねん」
「それだけ充実してたってことでしょ」
「いい事じゃなくて?」
「確かに色々ありすぎて、思い返すだけでパンクしそうだなあ」
十三組に入学するかと思ったら一週間で十組に編入する羽目になり、同級生におそれられたり元クラスメートに絡まれたり、委員会活動に精を出したり、そのせいで夏休みやクリスマスを丸々つぶす羽目になったり、会長の一足早い卒業を体を張って祝ったり、その後もバトルしてみたりしてるうちに受験勉強に追われたり。
晴日はしみじみとつぶやいた。そういえば、彼と出会ったのは随分早い時期だった。関わるようになったのはもっと後だけれど。
「そうねえ。委員会も退任したし、何も私を止める枷はないわ。晴日ちゃんは、どうなの?長者原さんと。」
「ファッ!?」
「おっ!今日はやけに乗り気じゃない」
「悪いけど、おねーさん今日という今日は逃がさないわよ?」
「そ、そんな…!!」
性格の悪さをこう言った方向に発揮して問い詰めてくるのが廻栖野と十二町で、こういった話題になるとそれとなく止めてくれる(風紀的な意味で)のが呼子、というのがいつもの構図のはずだったのだが。風紀委員でも何でもない彼女は、今まで縛られていた鎖を楽しそうに振り回しながら迫ってきていて。彼女もほかの二人と同じだったのだ。気にならないはずがなかったのだ。軽く裏切られたようなショックに見舞われながら晴日は必死に話題を転換させようとあたふたしている。

「じゃ、まずは大晦日のお泊りから…かしら」
「えっなにそれ聞いてないわよ」
「違う!一緒に初詣行っただけだってば!」
「何をお願いしたのかしら?」
「いや…だから、あの、」
「私は晴日ちゃんが受験前日に大事そうにしてたシャーペンのことが知りたいなー」
「その、その、それは…だから」
「もう手は繋いだ…とすると…」
「『人は誰しも、生きるためにちょっとした秘密の行為を必要としている』(シオドア・スタージョン『孤独の円盤』)だなんていうものね?」
「チューした?ねえねえ晴日ちゃんってば」

はっきり言って彼女たちは揃いも揃って才媛である。優秀なのである。特別なのである。単に学力が高いとか、そういう意味でなく。この集まりだって「女子会」と銘打っているがこの場にいる誰もかも、「女子」なんて呼ぶにはあまりにもえげつない存在なのである。
そんな人物三人に責め立てられて、誰が耐えられよう。

「言わない!!絶っ対言わない!!」
「「「私たちから逃げられると思う?」」」
啖呵を切ったにもかかわらず、どこから出たのかわからない情けない悲鳴を晴日があげるのは、そう遠くない。
雑炊は、まだほんの少しばかり湯気を上げていた。


優しい休日の過ごし方

(なんというか…予想外よ)
(『かんじんなことは、目には見えないんだよ』(アントワーヌ・ド・サンテグジュペリ『星の王子様』)…ってことかしら、ね)
(あの長者原さんも、普通に交際とかできるのね…)
(うわああああ…………)


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50000企画より「長者原との関係について根掘り葉掘り聞かれる」でした。
タイトルはカカリア様より。
素敵なネタをご提供していただきありがとうございました。




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