シャッフル! | ナノ




『○○くんに食事に誘われちゃったあ』

絶賛入院中で暇を持て余している雲仙冥利は、病室のテレビを意味もなく眺めていた。
"彼女との関係に危機感を感じる瞬間ランキング"なる、ひたすら下世話な話題が流れている。

そんな俗っぽいテレビを僅か10歳の美少年が達観した表情で眺めている姿が女性看護師の間で話題となっているなど、本人は微塵も知らない。

『なんなん?なんで俺に言うん?』
『妬かせたいんですよ!女の子は!』

その話題について芸人とタレントが語り合っている。
非常に下らない、と思うものの、もはやリモコンでチャンネルを変えるのすらも億劫だ。それくらいに代わり映えのない生活はやる気を削ぐ。
風紀委員の面々が見舞いに来てくれるが、やはり今は自分をこんなにした犯人でもある球磨川禊のクーデターの件で彼女らが忙しいのも事実である。

と、コンコン、と控えめなノックがした。
気配がしないあたり、唯一である男友達だろうと相場をつけ適当に「いいぜー」と返してドアへ向く。


「ご無沙汰しております雲仙さま。体調はいかがでしょうか」
「久しぶりだねえ、雲仙くん」

予想外だったのは、その後ろに制服の上に割烹着を来たゴム長靴の少女がくっついてきたことだった。

少女―――そうとしか形容のしようのないあどけない表情で春日晴日は笑う。
ちぐはぐでミステリアスで全てを飲み込むほど雄大な笑みはすっかりなりを潜めていて、どこにいるかも分からない。

「あ、これ沖縄土産のちんすこうね!私と長者原くんから!」
「沖縄ァ?人が病院に入院中だってのに随分いいご身分だな…………………あ?」
「僭越ながら今回の会場設営等に関して春日さまにご協力頂いている次第でございます。

活動の一環選管一同 で沖縄まで出向きましたので、土産物くらいはと思いまして。是非、冥加さまとお召し上がりください」


言葉の一部を強調して笑う長者原に突っ込んだら面倒臭い事になるのは目に見えているので雲仙はスルーをする事に決めた。
早速紙袋から取り出していかにもご当地といった包装紙を開封すると様々な味と色のちんすこう。とりあえず興味をそそられたパイナップル味を手に取って食べてみる。

「他には無かったのかよ。俺がひっくり返るようなニュースとかよ」
「はあ。これといって特には。そんなに頻繁に厄介事が起こってはわたくしめの身が持ちませんよ」
「ケケケ。よく言うぜ」
「あ。そーいえば」

ザクザクとちんすこうを咀嚼する音が響く平和な病室。
雲仙は『うまいがパイナップルではない』という結論を下した。




「球磨川先輩に−十三組に誘われちゃった」

・・
ざわ。

雲仙は、自身の肌が泡立ち背中の産毛が逆立ってそこを冷たいものが流れるのを感じた。

しろ。そんな言葉が似合う無垢な笑みで晴日はそう言い放った。
その笑みに意味なんて無い。
先ほどのテレビのような意図や駆け引きなどまるっきり無い。(隣の友人を見る限り受け取る側は違うようだが。)
ただ、事実を告げるだけの無垢。
なのに、こんなにも寒い。

「、それで…」
「うん!先輩には悪いけど断ったよ。私は今中立の立場だからそんなのできないって」
「……………そうかよ、」

正直なところ、雲仙は安堵していた。
春日晴日の異常、受容によってそんな破滅の頼みも『受け容れて』しまったのではと、危惧したから。只でさえあんなマニフェストを掲げられ治安が危ないというのに。この上更に副委員長クラスが寝返るなど、考えただけで恐ろしい。
部外者を巻き込むなんて前代未聞の行動を起こした選管に若干の不信感を抱いてしまった雲仙ではあるが、まさかあの怠惰はそこまで見通していたのだろうか。
結果的に枷となったそれが晴日をくい止めたのだ。

「春日さま…「…あ゛ー。もうそろそろ検査の時間だからよ。じゃあな」
「あ、そーなんだ。じゃあねえ、雲仙くんお大事に!」
「…失礼、いたしました」


そして雲仙は何か言い掛けた長者原を遮って早々に2人を追い出した。
頭の回転が速すぎるが故に友達を疑ってしまう己が思考を気取られぬように。

[←*] [#→]


[ back to top ]