シャッフル! | ナノ




「すごいなあ。今日は秋らしく林檎のデザートでも作るのかな?」
「ああ、そうだよ!今が旬の、熟れに熟れた林檎でねっ!」
「季節感を無碍にする私ではない」

箱庭学園食堂の奥の厨房にて。

ダンボールいっぱいに詰め込まれた真っ赤な林檎を前に晴日は感嘆の声を上げた。
赤黒七並べにて美化委員会に吸収された与次郎次葉と共に食堂の衛生用品チェックへ訪れた時のことである。

「ジャムを作ったからやろう。保存がきくから持って帰りやすいだろ?」
「感謝するよ、米良ちゃん」

そう言って厨房を後にしようとして振り返れば、与次郎が何やら希望ヶ丘と楽しげに話し込んでいる。
まあ、最近は後継者候補と委員会連合での活動で忙しいし、ゆっくり話す時間もないんだろうと大目に見る事にする。

「それにしても綺麗な色だね。なんだか神秘的だよ」

艶のある瑞々しい赤をながめて晴日。芳醇な香りがまた、その魅力を引き立てる。

「"善悪の知識の実"ですもんね」

そこへひょっこりと与次郎が現れた。

「旧約聖書?」
「うん。創世記最初の人間であるアダムとイヴが蛇にそそのかされて、エホバ神の言いつけに背きその実を食べてエデンの園を追い出されたのよね」

しまった、やぶ蛇だったかな。魔法少女に変身しなければいいのだが、と晴日と希望ヶ丘が密かに懸念したのは言うまでもない。

「ま、それが林檎だっていうのは俗説だけどね!ほら、ジャムだけじゃなくてコレも持って行くと良いよっ!」

この時ばかりは飯塚の絶妙な空気のよめなさに感謝した。
無農薬だからそのままかじっても美味しいよ!と茶色い紙袋に詰められた林檎を貰い、今度こそ2人は厨房を後にする。
横目に、希望ヶ丘が2人と仲良くじゃれ合っているのを見て、少し微笑ましく思った。
人材不足な連合に取ってみれば実に嬉しい誤算だ。


若干、というかかなり生徒会が美化委員会の仕事も兼任してくれているので業務は忙しい方ではないし、最近は固められた平穏で校舎が破損することもないので尚更だ。

「それで、ワニちゃんがですね――」
「はは、阿久根くんも罪だなあ」

長い廊下を2人で雑談しながら歩く。それぞれの手の小さな紙袋は今から食べるのが楽しみだ。



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