シャッフル! | ナノ




普通だとか特別だとか異常だとか過負荷だとかそういうモノも、言うなれば十人十色の個性のようなものだと晴日は思う。多分。
まあ、個性なんて陳腐な言葉で片付けるには少々…いやかなり抵抗があるのだが。まあ、話が進まないのでそういうことにしておこう。
とどのつまりそれらはひっくるめて《人間》であり《人類》であり《ヒト科》に分類される。一部の例外とかは置いとくとして。

そんなわけで異常と呼ばれる彼女、春日晴日も所詮は女子高生でお年頃。青春とやらを謳歌しているわけだが、往々にしてその青い春には悩みがつきものである。

そう、実に全く言うことなしに青くさい"恋人"――長者原融通についての悩みだ。


「おい春日、聞いてんのかァ?」
「え?もちろんだよ。いついかなる時でも私はアナタで貴方はワタシなんだから」

そんなこんなで悶々としている晴日の膝の上には堂々とクラスメートの雲仙冥利が座っている。
落とし物を届けに偶然訪れた風紀委員会で先ほど呼子からこの役目を押し付け…譲り受けた、というのがことの次第である。どうやら打ち合わせだかなんだかがあるらしい。風紀委員会は副委員長もスケジュールは相当ハードだ。

「ケッ。相変わらずかわいくねー奴」
「私に対する印象はアナタ自身のことだっていい加減気づいたらどうかな?」
「こんなプリティーなお子様捕まえといてよく言うぜ、ったくよぉ。…で、今日はなんだ?ノロケに来やがったのか?」
「ははは」

晴日の異常性は受容。なんでもかんでもまるごと受け容れてしまう、という異常だ。
そのため他人に影響されやすく、中学までの彼女には《わたし》という個性が欠落していた。
だからこそ何事にも公平で在ろうとする彼の異常と姿勢には心惹かれたし、居心地がよく…それ以上のところで好きだ。
だけどしかし悲しいかな、彼の有する異常は、
居心地の良かったはずの異常は、
真綿で首を絞めるように確実に晴日を弱らせていた。

「私は性質上とんでもないアウトローに好かれてしまうんだけど、まあそれは今に始まったことじゃないし良しとしようよ。
でもそれについて全く、微塵も、これっぽっちも興味関心を示さないというのも如何なモノかなあ…」
「あー?それこそ今に始まったことでもねーだろうよ」
「それは全くもってその通りだよ。別に私は束縛されたい訳じゃなくてね……
まあでも、仮にも恋人がほかの男に裸エプロンにされかかってるのまで見逃してもらわなくてもいいと思うんだ」

しゅうん、とうなだれる晴日というのは、雲仙にとってみればそれだけでもう異常だった。
いつだって雄大で人を見透かしたような奇妙な笑みを浮かべ、ミステリアスと言えるような雰囲気をアクセサリーのように纏った晴日が。これではただのありふれた一介のどこにでもいる女子高生だ。

ただ…精神的にもキツかったのだろう。フリフリのエプロン一枚を持ってきらきらした顔で、先輩に迫られる状況というのは雲仙は想像もしたくなかったが、まあ、やっぱり球磨川をこっち側に引き入れたのは失敗だったか?と疑念を抱かざるを得ない。
そんな球磨川にも公平に晴日に接する権利があると思っているのだろう、奴は。
夏に何があったか忘れたわけでもないだろうに…全く堅物で空気読めないとしか言いようがない。

「てめーの裸エプロンとかなんの魅力も感じねえな」
「おっぱい星人の貴方からしたら標準サイズのワタシじゃ物足りないのかな」
「さりげに標準サイズとか、盛ってんじゃねーよ」
「そんな事ない。至って平均!この学園が異常なんだよ」

雲仙はケケケ、と小気味よく笑った。
小さな両手に握られたゲーム画面はハイスコアを更新し続けている。
呼子が出て行った風紀委員会室には雲仙と晴日しかおらずピロピロとゲームのサウンドだけがこだましていた。

「ま、おっぱい派の俺が言うのもなんだが、お前はいい脚してると思うぜ?春日」
「といいつつ太もも触ってくる!やだなにこの十歳児…」
「つーわけで膝枕」
「はいはい」

腰掛けていたソファに寝転がり頭を晴日太ももに乗っける雲仙。
お昼寝のようで、黙っていれば美少年なのにもったいない…と晴日は心の中でため息をつく。
まあ、軍艦塔に住まう彼ほどではないが。

やはり風紀委員会はほかと比べても忙しそうだ。人材は不足していなくとも仕事は山のようにある。

と、扉の向こうでふわりと着地したような音がしたかと思うとスッ、と開き…
悩みの種が何食わぬ顔をして入ってきた。


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