dream | ナノ


眠たそうな目も
鎖の揺れる片眼鏡も
白い隊服も
腰に差した刀も
手にぶら下げたマスタードーナツの箱も

佐々木異三郎はいつもとなんら変わらない。

違うのは、私が隣にいることを許されている。只それだけ。

「いいの?私、一応元攘夷志士なのだけど」
「構いませんよ。今更攘夷活動していた者全員逮捕なんてできませんから。証拠もないですし。今も攘夷活動しているなら話は別ですけどね」
「じゃあ、やっぱり止めた方がいい」
「何故です?今の貴女はただの行きつけの店の清掃員、宝生智香です」
「行きつけの店って…。ただのドーナツチェーンでしょうよ…」
はあ、と思わず私はため息をついた。
彼が言ってる通り私は元攘夷志士で、今もお尋ね者のヅラや高杉晋助達と共に戦いに明け暮れていた過去がある。
ただ、そのうちの1人はとんでもないちゃらんぽらんになってしまっていて…。もう1人は、宇宙を股に掛ける商人になってたりして、人の人生わかんないもんだ。私も攘夷戦争が終わって、いっそ女子プロレスでもやろうかなんて考えた瞬間もあったけど今やマスタードーナツの一清掃員だ。
そこでたびたびドーナツを買いにくる彼と出会ったわけだけど。
知らないうちに仲良くなってしまって…色々あってバレてしまった。
確かに彼の言うとおり、過去は過去。今は今。
だけど、つい最近鬼兵隊なんかに勧誘されちゃ引け目も感じるよ。
「確かに今の私には攘夷の意志はないよ?でも、上手く行かないのを時代のせいになんかしたくないの」
「それが、私と居てはいけない理由になるんですか?」
「私はなると思ってるんだけど」

そうでなくとも、不釣り合いすぎるでしょ。
どこの馬の骨ともしれない元攘夷志士の女と、幕臣の名門一族の嫡男だなんてさ。
大体彼は私みたいな人種をバカにしてた節があったはずなのに…。

「なりませんよ。人はだれしも、犯罪者になる可能性を秘めています。いまここで私を殺せない貴女はただの凡人ですよ」
「さすが、エリートの言うことは違うね」
「エリートですから」
…前言撤回、やっぱり佐々木さんは佐々木さんでした。

眠たそうな目も
鎖の揺れる片眼鏡も
白い隊服も
腰に差した刀も
手にぶら下げたマスタードーナツの箱も

この人だから愛しいと思えるんだ。
どうやら答えはもうとっくに出てたらしい。
時代のせいになんかして、諦めようとしてたのは自分だったみたい。

「せいぜい、私にしょっぴかれないように頑張ってください」
「佐々木さんにはかなわないや」
私はあはは、と久しぶりに声を上げて笑った。

世界はとても曖昧だ
(○×じゃ答えは出ない)

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身分違いに悩む恋を書いてみたかったので。
しかし全然甘くないですね。

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