dream | ナノ


見廻組隊士
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鼓膜が痛いほどの静寂が辺りを支配している。
少しでも声を発すれば、指を動かせば崩れてしまいそうなほど脆いと思われた均衡はやはり、簡単に崩れてしまった。

「無事ですか、智香さん」
「きょ、局長…」
足元に横たわる男には見向きもしないで佐々木は智香へと手をさしのべた。
月明かりに照らされた白い制服はそこだけ浮き上がったように存在を示している。

「全く…。だからあれほど早く帰ってきなさいと言ったんです。白夜叉は何をしているのですか」
「あ、銀さんなら自分が家に送り届けました」

ハァ、というため息を聞きながら差し出された手を握って智香はゆっくりとたちあがり砂をはらう。銀時と意気投合した智香は彼の誘いで酒屋で呑んでいたのだ。
隊服ではなく私服で。わざわざ着替えるのは面倒なのだが只でさえ風当たりの強い武装警察なのだ。職務怠慢だなんだと騒がれないための自衛である。
そして呑んだくれて潰れてしまった銀時を家まで送り届け帰り道をブラブラ歩いていたら、攘夷浪士らしき柄の悪い男達に暴行を加えられそうになっている女性を発見してしまった。とっさに庇って応戦したのだが丸腰ではかなわず、危ないところを助けられたのだ。
「やー、助かりましたよ。危なかった」
さっきまで身を危険にさらされていたというのに智香はもうへらりと笑っている。
その態度に佐々木は微かに眉を寄せた。

「貴女、仮にも襲われかけていたんですよ。自覚はあるんですか?」
「な、なに」
「刀も隊服も身につけていない貴女を襲う理由くらい、分かるでしょう」
「………」
「目をそらしたって無駄です」

恐る恐る視線を佐々木へと戻した智香はいつもより剣のついた目を見て、蚊の泣くような声でごめん、と呟いた。

「心配、したんですからね」
「…ありがと」

視線が交わってお互い、口角をあげた。
また夜は静寂を取り戻したが、それは決して悪いものではない。



(闇夜の中にひどく鮮明な笑みが浮かんだ)


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title by 花畑心中様

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