dream | ナノ


「局長局長!」

ひどく嬉しそうな声色で、というか跳ねながら、見廻組隊士宝生智香は佐々木の腰のあたりに抱きついた。
彼女もまた、佐々木と同じく幼少の頃から剣技を徹底的に血を吐くほど叩き込まれたエリートである。が、彼と違いそれのみでありそれ以外はてんで幼い。頭も若干可哀想である。
だが、不思議にも佐々木が彼女を可愛がっているのは有名な話で、今だって優しげな声色で問いかけ、ゆっくりと後ろを振り返る。

「何でしょう、智香さん」
「なんかちっちゃいの見つけた」
得意げに笑う智香の丸い指先にはとても小さな黒いチップ。
よくこの散乱した部屋から見つけ出せたものだ、と佐々木は感心した。

「本当に見つけたんですか、機密データの入ったチップ。何というか流石ですね。犬並みの鼻というか鷹並みの目というか…」
「おお、誉められた」
「…よく分かりましたね。流石です」
「…何故だろうバカにされてる気がする…!!」
「何を言ってるんですか。貴方はバカです。というか、バカ以外の何者でもありません。そして私はエリートです」
「そうだよなあ。局長頭いいもんなあ。なのに強いもんなあ。私局長には勝てんなあ、絶対」

そう言って、智香は珍しく頭を垂れている。落ち込んでいるようだ。柄にもなく高尚に。
智香は馬鹿ながらも自分が剣技以外はからきしだということを自覚していて、それ以外に自信を、存在価値を見出していない。
しかしやはり馬鹿なので、佐々木がそれ以上の所で必要としてくれているなど気づいていないのだが。

「私以外に勝てればそれでいいのですよ。私は智香さんの味方で、メル友で、仲良しですから」

ね?
と透き通った目を屈んでのぞき込めば、直ぐに人懐こい満面の笑みを浮かべた。
それはそれは嬉しそうに。

「局長局長!」
「何でしょう、智香さん」

多分、この笑顔に洗われているのだろう。
可愛くて愛しくてしょうがない。誰にも渡したくないとさえ思う。

「自分、局長のこと大好きです!」

「そうですか。それは知りませんでした」

きっと佐々木はどれだけ血を浴びようが真っ直ぐに育ち続ける、花のような彼女が好きなのだろう。



(言ったそばから負けてしまいましたね)



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title by休憩様

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