dream | ナノ


※夢主がヤンデレです



「随分と精がでますね」
「あ、異三郎!」

眩しい朝日の降り注ぐ道場。
竹刀を振る者達のその中で一際小さな剣士は、そんなことをまるで意に関せずに向かってくる相手を次々と薙ぎ倒していく。
軽やかなステップと、鋭い太刀筋。瞳の奥に沈んだ殺気は見つけることは難しく何気なく何でもなく躊躇いもなく急所を抉る。
素人目にだって明白だった。
宝生智香の振るう剣は殺人を行うためのモノだと。

そんな凄惨な"練習"は、彼女の恋人である佐々木異三郎が現れたことにより一瞬にして止まった。


「そのくらいにしてはどうですか。練習相手も尽きたようですし」
「…ダメよ、せめてあと素振りだけでも」

佐々木はあたりを見渡して、その眠たげな目を少しだけ見開いた。
役職も階級も関係なく、今朝道場に募ったエリート達の屍が累々である。
そしてこれを行ったのは、この、佐々木の前で至極嬉しそうに表情をとろかす女なのだ。

智香は佐々木が隅に腰を下ろしたのを見届けるとまっすぐ前を見据え幾度となく同じ弾道で竹刀を振り下ろす。


「待たせてごめんね?でも、また異三郎が怪我するなんて耐えられないんだもの。だから、私はもう誰にも負けちゃいけないの。真選組にも、白夜叉にも、それが異三郎でもね」
「……………」

些か心配をかけすぎたか。佐々木は心の中だけでため息を吐いた。エリートともなればこれくらい容易い。
智香は相変わらずまっすぐ、まっすぐ、竹刀を振り下ろしている。

「だって―――――」




にっこりと極上の笑みで。


「異三郎を殺すのは私なんだから!」


かわいいひと

(…これさえなければ、なんて言えない私も狂ってますが)


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ゆるやかに響くだけと同じく、佐々木が怪我をした後どうするか、というお題で書いた一周年記念没作。
愛が重くて盲目な、いわゆるヤンデレ夢主。

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