「好きです」
佐々木は何の抑揚も無い声で
いつも通りの無表情で
そう言った。
「私も、好きだよ」
そう返す智香の声にも感情はない。
それどころか2人は先ほどから目も合わせていないのだ。
自室で過ごしているというのにそれは恋人の所行と言うにはあまりにも無機質で、あまりにも固い。
「嬉しいですよ、貴女がそう思ってくれていて」
「私も嬉しいよ、貴方とおんなじだね」
お互い頑なに名前を呼ぼうともしない。端から見れば本当に恋人なのかと疑いたくなる光景だ。
それもそのはず、二人の関係は打算だらけで嫌になってしまうほどのただの汚い腹のさぐり合いだ。
口先だけで愛を歌い、その目は相手をうつさない。
それでも、いつからかこの男を愛しいと、
そう思ってしまった自分は既に敗北しているのだと智香は思う。
本当の恋人のように白いこの人の抱える黒を背負ってあげられないだろうかとそんな考えが巡ったのはもはや星の数。
情報を搾取しあう関係に終止符をうつなど造作もないことなのに。
それでもそれがどうしてもできない。
「智香さん」
「なに?」
名前を呼ばれたその瞬間に視線に射抜かれる。急に心拍数が上がった。
情報を搾取しあうだけの関係に終止符をうつのは本当にたやすい。
それでもそれがどうしてもできないのは
「智香さん、好きです」
彼の嘘がとても心地いいから。
「私もだよ、異三郎…」
優しい嘘をちょうだい
(これが真実だなんて彼/彼女は知らない)
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両片思いって、なんか好きです。
エリート同士で、自分のメリットを考えた上の形だけのお付き合いだったのに好きになっちゃって、それでも打算にまみれてて言えない、きっとそんな恋。