dream | ナノ


充足感はないが、しかし足りないものなど周りにない。
だから私は弾かれぬように自分を着飾る。
それはここでは当たり前のこと。

成金だらけのパーティーで、その中でも多分私はより一層目立っている。真っ赤な着物と口紅。悪趣味としか言いようがないが、かけ離れた自分を演じることで自分を守っているのだ。
それが分かるくらいには、私は賢いつもりだった。
ただ――部屋の端でケータイを弄くっている彼、佐々木異三郎には負ける。
彼に出会ったのは、私が金に物言わせて幕府に圧力かけて身辺警護を依頼したから。
名前、佐々木異三郎。
役職、見廻組局長。
出身、名家佐々木家の出。
別名、三天の怪物。

聞いていたのはこれだけ。
とにかく優秀な男だと聞いていたからまあそうなんだろうと、軽い気持ちで。
ところが、私は百聞は一見にしかず、という言葉の意味を身を持って体験する事になる。やはり先人というのは偉大らしい。

第一印象。まっしろ。
第二印象。携帯依存症。
第三印象。メール弁慶。

しかし百聞通りの優秀さだった彼は、それが発覚した今も引き続き私の警護を勤めてもらっている。私はここで宝生の家の名を売るのが仕事だ。成り上がりの私の家は古くからの名家にしてみれば気に入らない。次から次へと刺客が送られてくる。
しかし上手く生き長らえても政略結婚。どれだけ自分を彩ってみても未来は灰色だ。
だから死ぬことはそれほど怖くない。が、歪んでいるかもしれないけれど、この世に生を受けた以上は生き抜く努力をすべきだと思ったのだ。
でなければ、金を喉から手を出してでも欲しがる方々に、一生懸命生きる方々に、失礼だと思ったのだ。(正確には以前は交流があった入官の局長の変わり果てた姿を見て)
いつもお開きの少し早めに帰ることにしているので、適当な時間に彼へと視線を送る。すると彼は隣の美少女になにか指示を出して私と共に会場を後にした。

彼に手を引いてもらっていて階段を下る。

不思議なひとだなあ。

そんな考えが頭によぎったからかは知らないが、私は足を踏み外して案の定彼に受け止められた。
「…すみません」
体勢を整えると、やはりというか、彼の白い服にべったり赤い口紅。
「いえいえ。これはこちらの不注意ですから。気にしないで下さい」
「でも、この口紅すごく落としにくいんですよね。只でさえ白い服なのに……」
「だとしても、智香さんが気にすることではありません」

「でも」
「というか」

ぐい、と彼の指が、私の唇を拭う。
たったそれだけで心臓が跳ねた。

「貴女は、こんなものをつける女性ではないでしょう」

どうやら、彼は何でもお見通しらしい。完全に見破られている。
これは全て灰色な私の、ほんのささやかな抵抗のつもりだったのだが。それすらできないとは、我ながら実に滑稽極まりない。
…は、と乾いた笑みが夜に溶ける。
それを見て、佐々木さんは呟いた。

「やはり貴女には、黒がよく似合う」
「…どうせなら白がよかったかな」

自分勝手な極彩色
(貴方と同じ、白が良い)

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出発点はさぶちゃんの服にキスマークがついてて〜みたいな話だったはずなんですが…

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