夢喰 | ナノ
54

佐々木はいつも通りに白を翻しながら黒塗りの車から降り立った。
見廻組屯所からそれほど離れていない大きな屋敷。その門の前でケータイを開き、信じられない速さでボタンを連打する。
ギイイ、と重厚な音で門が開くのと、佐々木がメールを打ち終わってケータイを閉じるのはほぼ同時だった。


「佐々木様。」
ぽつん。
大きな門の真ん中に、男が一人立っていて恭しく頭を下げていた。
男は林と名乗った。この名家清水家に代々仕える家の出だとかで、なかなかに隙のない身のこなしをしている。

別の若い使用人の男に車の鍵を預け、林に案内されて佐々木は歩き出した。
本邸へあがり、純和風の立派な建物の廊下を歩く。

「お仕事の合間を縫ってきていただいて、本当にありがとうございます」

「いえいえ。佐々木家も……こちらの清水家とは古くから交流がありますから」

カコーン、と。
砂利が整えられた庭園に、鹿威しの竹が落ちる音が鳴り響いた。


長い廊下を端まで行くと、古風な雰囲気とは不釣り合いで余りに文明的な鉄の箱があった。
それに無言で乗り込み、林はボタンを押した後にカードキーを滑らせるとエレベーターは動き出した。
音もなく沈むエレベーターに一抹の不安を感じながらも、到着した階下で佐々木は息をのんだ。

美しい曲線を描く金属。
この国の伝統的な船を模した造り。
それでいて、今までのものと明らかに違う重厚感。
英知を結集したであろう、飛行船。

「こちらが清水家が独自に開発致しました超大型の飛行船になります」
「ええ。ニュースで拝見しました」
「これはこれは。ありがとうございます」

ニュースで見るよりずっと壮大なそれを、佐々木は悲しいものをみる目つきで見上げた。しかし、片眼鏡で死角になる右に佇む林からは分からない。

「どうぞ、ごゆるりと見学ください」

林は扉の前でまたしても別のカードキーを滑らせる。
ピー、と電子音が響いてゆっくりと、誘うように扉が開いていく。
ゴゴン、と開ききると明るく点灯する船内へ足を進める。
外見よりも、よりいっそう無機質で堅い船内を踏む足に力が入る。

「随分と立派ですねえ。これなら沢山積めそうだ」

辺りを見渡しながら、佐々木。
林は張り付けたような笑顔で見守っている。
が、それもここまでだった。




「人間、とか」

ぽつり、と呟かれた言葉。

それは小さな小さな呟き。
けれどもこの空気を壊す破壊力を確かに備えていた。
瞬間、両者の称えていた笑みは跡形もなく消え去り、鋭い獣のような冷え切った視線が相手を抉った。
ぴぃん、と張りつめた空気はどこまでも切れることなく耳鳴りがするほどまでに静寂を深めていく。



「…………………どこまで、掴んでらっしゃいます」
「何のことでしょう。私は何も知りません。私はただ、『佐々木』の人間として、そちらと交流を深めに来ただけです」


「………………そうですか」

そういうと林は、また柔和な笑みに戻り、今度は主人の部屋へと続く道を示し、歩き出した。
無表情な足音が交互に床を這う。
佐々木はポケットの中のケータイを握りしめた。


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財閥やらは日本人の名字ランキングで佐々木と同じ辺りにあるものを選びました。他意はないです!もし同じ名字だったり、設定してる方がいたらすみません…!!


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