夢喰 | ナノ


私と佐々木さんは大通りをゆっくり歩きながらぽつぽつと他愛ない会話を交わす。
本当に、ついこないだ殺し合っていたとは思えない。ずるずる引きずってる私が女々しいのか、この人がオンオフの切り替えがうまいのか。
取りあえず余所行きの笑顔で微笑みかける。

「そういえば、貴女ですか。真選組唯一の女隊士というのは」
「よくご存じですね」
私は遠目に見ていただけで話すのは初めてだった。
口角をキープするのが早くも辛い。
「いえ 私真選組のファンですから」

もはや嫌みでしかねえよ!
と、その時前方から隊車が一台こっちに向かってくるのが見えた。
げ、と思ったときにはもう遅かった。中から鬼が飛び出してきて私は回れ右で逃げようとしたが無駄だった。瞳孔の開いた目で睨まれるのだけはいつまでたっても慣れない。

「おい宝生。なんでそんな奴といる」
「た、たまたま、そこで会って…」

目が思いっきり泳いでる自覚はあった。案の定副長は私の手に握られているマスドの箱を視認するや否や頭をしばいた。

「テメエは勤務中に何やってんだ!」
「ちょっいたっ!良いじゃないですか見回り終わったし午後から非番だし!」
「屯所に帰るまでが見回りだ!」
そういうと更にその腕を振りかざそうとする。しかしその腕は白によって遮られた。

「それくらいにしましょう。女性に手をあげるのは感心しません」
「こいつは女である前に真選組(ウチ)の隊士だ。部下を注意して何が悪い」

ちょっと、なに?
新手のいじめかこの状況。
今にも泣き出しそうだよコノヤロー

また大事になるか、と思ったけど佐々木さんは意外にもそうですか、って引き下がった。さすがエリート、無益なことはしない主義なのか。
しかしホッとしたのもつかの間、副長はその態度が気に入らなかったらしい。額に青筋が浮き出てますよー!
「宝生、帰るぞ」

副長も見回りじゃ、と思ったがそんなこと聞くのは野暮ってヤツだ。まだ生きていたい。
素直に返事を返そうとしたのだがまたしても白い化け物に遮られてしまった。

「もしかして、真選組の屯所にお住まいで?」
「…は?…まぁ、隊士ですから」
住むところがなかったて言うのもあるけど。隊士のみんなは何かと気を使ってくれるが、プライバシーが若干アレだ。

「女性1人では何かと大変でしょう?」
「それなりにはやってますが……」
女性の社会進出が始まったもののまだ真選組には女隊士は私しかいない。正直"女"隊士って言葉も好きじゃない。
だから今まで色物扱いだらけでそれはそれは下世話なセクハラ発言をしてくる輩も沢っ山いた。町の視線もそう。
でも佐々木さんの眠たげな目からはそういった下心は読み取れない。自慢できない育ちである私だけどそういったものを見抜く目だけは一級品だ。
だけどそんな目は知らない。
薄暗い何かを宿している、そんな目は。
とりあえず適当に流したがなんなのだろう、一体。
…段々副長の目が凄いことになってきてる。この目は知ってる。キレる寸前の目。
できれば早々にお引き取り願いたい。

しかし、次に放たれた言葉は簡潔だったにも関わらず、思考回路を停止させるのには十分な破壊力で意味を理解することができなかった。

「どうです?良かったらうちに住みませんか」

今という瞬間ほど自分の耳を尋問したことは、ない。



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佐々木局長が夢主の名前を知ってたのはエリートだからです。嘘です。
でもめぼしいメンバーのプロフィールくらいは知ってると思うので…。


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