夢喰 | ナノ
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「珍しいですね。貴女から場所を指定するなんて」
「いや、たまにゃ私の行きつけでも構わないでしょ?」

待ち合わせ時間ぴったりに古びた定食屋に現れた佐々木さんは疑ってますよ、といった顔でこっちを見ていた。
あえて気づかない振りをして笑顔でいなし、角のテーブル席に座り適当に日替わり定食を2つ注文する。

「ところで宝生さん。例の事件、何かつかめましたか?」
「いや、これがなーんにも。進展ないったらありゃしないよ。家出人のリストを何度洗っても男女比変わってなくてさ」
「…そうですか」

落胆してみせれば、佐々木さんの片眼鏡の奥が鈍く光るのがわかった。
かかった、とはやる気持ちを抑えて慎重に言葉を選びながら話す。

「じゃあ私からも一つ質問」
「なんですか」

「佐々木さんさ この調査って、個人プレー?」

にこり、と。
できるだけ何気なくいつもの調子で笑いかけると、ぐ、と佐々木さんが言葉に詰まった。
なんでこんなに調査が遅いのかも、真選組の管轄に佐々木さんが息を潜めていたのかも、これで全て説明がつく。

「情報が欲しいから私に話したんでしょ?巻き込まれなかったとしても、断った引け目に情報せしめよう、とかさ」
「勝手な被害妄想ですよ」
「じゃあこっから話すのはちょっと長いだけのただの私の独り言。別に聞かなくてもいーよ」

先読みされたからだろうか。少し苛立っているのが見て取れる。
自分より遙かに頭の良いこの人を少しでも出し抜いている事実に高揚感を感じて、
私は書きなぐった手帳のメモページを開いた。


「あるところに、エリートな見廻組局長佐々木異三郎がいました。彼はどこからの情報かは知らないけど?連続婦女誘拐事件を知って捜査に乗り出しました。
しかし、誘拐された女性の身元は割れません。家出事件に紛れているのかと思えば時間がたってもそんな形跡はさほどないのです。天人の口振りからしてそれなりの数を手に入れてるみたいだったからこれは不自然です。
となると、別のルートがあるはず。
そこで大変頭の狡賢い佐々木さんは、真選組の宝生智香を利用することにしました!
多大なる権力を持つ佐々木さんですが、天人に手を貸す幕府の要人のせいか、はたまた自分の目的を他人に知られたくないからか、単独の捜査のため行き詰まっていたからです。
しかし宝生さんからは男女比は変わっていない、誘拐された女性は検討がつかないと言われてしまいました……
―――そんで、確証を得た、てとこかねェ」

にや、と今度はできるだけ悪く笑ってみる。
無表情の中に見える不機嫌が深くなっていく。

数瞬の沈黙。

はあ、と佐々木さんはため息をついた。

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