夢喰 | ナノ
39

「ん、知ってるよ。昨日のはその捜査だったからねェ」
「その影に紛れて、ある天人の人身売買組織が行動を起こしているんです」
「いくら天人っていっても、それなら証拠さえあれば罪に問える。けど、そこで頭をもたげるのが『とある方』ってワケね」
「ええ…。佐々木家と肩を並べるほどに有名な、ね」

誰が、とは言わなかった。
掴めていないはずはないから、彼にとって都合が悪いかよほど危険なのかどちらかだろう。

「分かっちゃいたけど、世の中腐りきってるねェ」
思わずため息をついた。

「分かり切ったことです」
「そりゃ、私や佐々木さんみたいなのが警察なんだし?攘夷したくもなるね」
「どういう意味ですか」

眉をひそめて怪訝な顔でこっちを見ている。そのまんまの意味だよ、と言って、ビデオデッキに沖田くんから借りてきたテープを突っ込んだ。
再生ボタンを押すと、「なんですかそれ」と佐々木さんがのぞき込んでくる。

「家出の方の元凶」

映し出されたのは主演するアイドルのグループのオープニング。
『悩める少年少女に送る』感動秘話、である。

「家出の方が早急に見つかれば、何かできるかもしれない」
「………最初から、巻き込まれる気まんまんじゃないですか」
「いいじゃん、手伝わせてよ。業務とか関係なくさ。管轄の問題とか色々あんでしょ?」

ね、と言うと佐々木さんはテレビに向かって腰を下ろした。
私も隣に並んだ。





「ふわ…」

時刻は只今午前3時。
CMや前説を飛ばして見ているけどまだそれでも六話の終わりくらい。
主人公の男の子が雨の中泣きながら、公園の遊具の下で夜を明かそうとしている。

…だんだん意識がもうろうとしてきた。
なにもぶっ続けで見ることないのだが、寝ようというタイミングを逃してしまって今に至る。
しかも佐々木さんは眠たいのか何なのかわかんないから余計に声をかけづらい。

…とそこで六話が終わった。次の始まりまで飛ばそうとリモコンに手を伸ばしたら、急に画面が変わった。
どうやらこのテープ、古いドラマの上から重ねられたもののようで一瞬以前の映像が流れたりする。

しかしタイミングをミスったのか今回は長かった。
ハロー、アイデア。という例のタブレットのCMだ。
どんな場所でアイデアが生まれるのかというあれで、オチは会議室からはなにも生まれない、というもの。
懐かしさを感じながら見入っていると、プールのシーンになった。オジサンがボートの上で寝ていてバランスを崩してボッチャーンと水に沈む。
なんだかおかしくて飛ばすのを忘れてクスクスと笑っていると、今まで静かだった佐々木さんが急にがばっと姿勢を立て直した。

「私としたことが失念していたな。そうだなにを難しく考える必要があったこんな初歩的なことなのに」
「………佐々木、さん?」

そしてなにやらつぶやき始めた。
ビデオからは例のオチが流れる。会議室、0%。
ブツブツと呟く佐々木さんになにもいえない。眠くて思考が追いついていないし、言動にも追いつけない。


「プールに行きましょう」
「………は?」


ただ、真夜中に響いたその言葉だけはやけに鮮明に覚えている。

[*←] [→#]

[ back to top ]