あの電話の15分後――
私は近藤さんの指定したファミレスのドアを押した。
店員に待ち合わせであることを伝えて近藤さんを探す。
真選組の制服を着た巨漢は目立つのですぐに見つかった。
「近藤さん、どうしたんですか?話って。しかも屯所じゃなく……」
近づいてみて、私は戦慄する事実を目の当たりにしてしまった。
「こんばんは。智香さん」
「お、おた」
なんと、近藤さんの隣ににこやかな顔でお妙さんが座っていた。
「おお、悪いな智香ちゃん。いきなり呼び出したりして」
「ここここここ近藤さん…!?まさかまさかまさか、まさかですかァァァ!?」
ついに!?ついにお妙さんのハートをハントできたというのか!?
いや、近藤さんは良い人だし、少なくとも副長なんかより好感が持てるし、憧れてはいたけど、これだけは天変地異でも起こらないと有り得ないと思っていたのに…!!
「なにを勘違いしているのか知らないけど、私最低でもお付き合いする人は霊長類ヒト科から選ぶわよ?」
「あ、そうなの…」
ですよねー。
いつも通りすぎるくらいの扱いに安心するべきなのか悲しむべきなのか。
…よく見りゃ近藤さんの頬はおもいっきし腫れていた。
「あのね、今日はお願いがあってゴリ…近藤さんに呼んでもらったの」
「は、はあ…」
さりげにひどい。やっぱり悲しむべきか。
「実は明日、お店の子がちょっと足りなくてね」
「……」
「1日だけヘルプお願いしたいんだけどいいかしら」
「……………」
にっこりと。
それはもう眩しいくらいに。
そりゃ近藤さんも惚れるわってくらいの笑みでサラッと凄いことを言われた。
「えーと、私の記憶が正しけりゃお妙さんはキャバクラに勤務してたと思うんですが」
「ええ。"すまいる"に」
その店はよぉく知ってる。
松平さんを迎えに行ったりしたことがあるからだ。
ここ一年は近づくことはなかったんだけど。
前にも万事屋さんに頼んだことがあるらしいが、散々だったらしい。…ホストだけじゃなかったのかあの人。
「近藤さん…?一応私、自分を公務員だと思ってんですが」
「いや、智香ちゃん。困っている民間人を助けるのは我々の立派な仕事だ!」
「………」
頬を腫らしながら力説する近藤さん。
それはお妙さんの話を断ってくれてつけた傷?それとも単なるストーカー行為で?
後者ならこの話を意中の女性の役に立てるならと喜んで私を呼んだことになるけど。
もう、何もいうまい。
前者ということに、しておく。
銀河の果てくらい遠い未来だとしても、局長夫人になるかもしれない人の頼み事。
私としても近藤さんにもうゴリラと見合いなんてことになってほしくはないし。
振り回されんのはいつもじゃん?
「じゃあ明日、お願いね」
と、花が笑ったような笑顔のお妙さん。
あの時の電話の時の嫌な予感は、ばっちり予感では済まなかった。