夢喰 | ナノ
20

「やーまざきィ」

夕暮れで染まるかぶき町の一角万事屋銀ちゃん――の向かいの建物の中。
風呂敷包みを抱えて私はそこにいた。

「…智香ちゃん」
「元気してたー?」

椅子に座って窓をひたすら見続けている友達に声をかけた。
その顔はひどくやつれ――てるのに。むしろイキイキしてる。なんかこわい。
なにこれ。

「…暇してるかと思ったら、そうでもないんだねェ」
「え?そんなことないよ」

変わり映えはない、しかもだめ人間な生活を見続けてるのはひどく辛いらしい。にしては、なんか。
「楽しそう…?」
「え!?」
「いや、仕事熱心だねェって」

自分が楽しくない仕事してるからだろうか。
山崎が少し眩しく感じる。

「智香ちゃんこそ、大丈夫なの?真選組と見廻組の親善大使とか聞いたけど…」
「いつの間にかそんな事になってたんだよ。若干ハメられた気がする」

確かに『友好を深めるために』とかうんたらかんたら言ってた気がしなくもないが、おかげで私はスパイよろしく諜報活動を仕事とする事になってしまった。

「はい。これ弁当。あんぱんばっかじゃ身体壊すよ」

只でさえ高血圧とニコチン中毒で危ない上司がいんだから、心配にもなる。…山崎も立場的には一応上司なんだけど。あと神山も。

「適当に食堂のお昼の余り適当に詰めてきた」
「そこは手料理じゃない?」
「私が料理したことないの知ってんでしょ。いんの?いらないの?」
「いただきます」

素直に風呂敷を受け取った山崎の周りに散らばるゴミを持ってきたゴミ袋に詰め込んでいく。あんぱんの袋、あんぱんの袋、牛乳の空、あんぱんの袋…あんぱんの袋ばっかりじゃん!

「どう?見廻組は」
「どう…って、やっぱりなんだかんだ言ってもエリートだよ。英字新聞読むし行儀はいいし…」
「ふーん。なんか分かった?」
「ああ、親切丁寧嬉しいなってくらいにね、教えてくれた」

情報を得るには人に聞くのが一番手っ取り早い。主観的だから正確さには欠けるかもしれないが、こと人間関係においてはこれ以上有力な情報源もない。
山崎になら話しても問題無いだろう。
聞き出した内情とか、副長の挙動不審っぷりとか。
気づけば話は佐々木さんにまで及んでいた。

「一緒に官庁辺りの定食屋で食べててね。腹立つことに美味しいんだよねェ、これが」

弟をゴミのように扱って
副長を圧倒して
万事屋さんにギザウザスと言わしめて
私を嵌めて

ケータイ依存症で、メール弁慶でしょ●たん語を使いこなしてて、やたらポイントの溜まったマスドのカード持ってて、何の気なしにカレーうどん食べて服汚したり、でも魚の食べ方はすごい綺麗で、細いかと思えば意外に逞しくて、借りを作るのが嫌いで………

笑みはひどく悲しくて
影は、とてつもなく暗くて


「いつかあのペテン師をギャフンと言わせてやる!」

敵対する、男、だ。

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