夢喰 | ナノ


「うっし!準備できた」

私は満足げにダンボールを見下ろした。
今日は引っ越し当日。今朝まで使っていた日用品も整理して詰め込んだ。
因みに近藤さんが呼んだ引っ越し業者はアリさんでもネコさんでもなくドラ●もんがイメージキャラクターの所であった。
隣では山崎が荷物をまとめるのに使った紐やガムテープを片づけている。休憩時間を使って荷造りを手伝ってくれたのだ。持つべきものは友達か…ありがとう山崎地味だけど本当にいいやつだ。地味だけど。

「ありがと山崎、助かった。今度ミントンつきあうわー」
「どういたしまして」
「ん」
「あ、どうも」

他愛ない会話をしながら水を渡した。飲み干したそれは水分を欲した体にすぐに染み渡る。

「気をつけてよ。一応、敵地だから」
「敵地に送り出されるってーのに見送りが引っ越し業者とはねェ」
「ははは。なにしてんの?メール?」
「あー…うん。佐々木さんから」

…大変そうだね、とやつれ気味に言う山崎に、あんたほどじゃァないよ、と返せばそれ謙遜してるの?けなしてるの?と食いつかれたが正直それどころじゃない。
早くメール返さないとまた次のメールが受信ボックスに届けられることになる。
はじめのうちは気づかずにスルーしちゃうし、サブちゃんが一瞬誰だか分からず困惑したりもした。
風の噂には聞いてたが、彼は極度の携帯依存症らしい。全く、江戸の警察のトップにはロクなのがいないのか…。
と飲んだくれた強面のオヤジと現在愛の狩人として息を潜めているだろう局長を思い浮かべた。
カコカコとボタンを連打しながらそんな事を考えてるうちにまた新しいメールが来た。
しかしこれでもマシになった方だ。一時間に何十件も送ってこられたときは気づいたら充電し忘れのケータイの電池がなかった。
仕事中は返せないから間を空けるか休憩時間にお願いしますといったら休憩時間に数分おきといったペースで届けられるようになった。…十分多いけど、そこは妥協しよう。
返す回数は少ないが彼は満足しているらしい。メル友が少ないとか何とか言ってたけどその頻度とテンションのせいだろこれ、間違いなく。

「山崎、朝飯食いっぱぐれちゃあ面倒だ。食堂行こっか」

時計を見れば朝の休憩時間もそろそろ終わりそうだ。今行っとかないと女中さんに迷惑かけるし最悪自分で作らなきゃなんない。
自慢じゃないが私は料理が全くできない。上手い下手の次元じゃなくて包丁を握ったことがないからかってが全くこれっぽっちも分からない。
するってーとまた、山崎に世話になるハメになる。ここまでしてくれたんだからそれは避けたい。
只でさえ見廻組に…潜入でいいか。潜入するにあたって監察の心得なるものを伝授してもらったしその上荷造りまで手伝わせたんだからね。
本当はミントンだけじゃなくてバカディ?ってやつくらいまで付き合いたいくらい感謝してる。

「山崎もこれから仕事でしょ、気をつけなよ」
「ああ、万事屋の旦那を張れって、副長がね」
「万事屋さん、ただもんじゃないとは思ってたけどまさかねェ…。そら見張りの一つでもつけたくなるわ」
「結局逮捕なんかできないくせにね」
「ほんと」

私たちはペットボトルの水を飲み干して食堂へ向かった。
この時隣を歩く彼に運命の出会いが待ち受けているなんて私はおろか本人も知らない。



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山崎とは一番仲のいい友達です。
これから彼は例の張り込み任務に出かけ、運命の出会いを果たします(笑)

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