偽物彼女 



「白川愛里さん、俺と付き合って欲しいッス」


スポーツに力を入れている海常にバスケで凄い人が入学してきた。しかもそれはモデルの黄瀬涼太らしい。

入学そうそう女生徒達の視線の的となり、常に女の子に囲まれているようなチャラチャラした学校のアイドル君。

流行やそこらへんの噂話とかに疎い私が耳にするのだから相当なのだろう。



かと言って私の周りがあんまり変わることはなかったし、黄瀬と全く関わらないどころか常に彼の周りには女の子の壁が出来ていてその姿を直接拝んだことさえないのだ。


そんな接点のない彼が、いきなり私の前に現れてそう言ってくれば羞恥心や優越感より先に純粋な疑問が飛び出してくるのは普通のことだと思う。




「……どういうこと?」
「だから、俺と付き合っ」
「なんかの罰ゲームとかだったらやめて欲しいんだけれど」
「はは、やっぱ白川さんって予想通りの人ッスね」


満足げにニヤニヤ笑う黄瀬を前に更に顔をしかめると、「勿論ゲームじゃないっスよ」と軽い口調で返された。



「今日は、白川さんにお願いをしにきました」
「……そう。私に何の用?」



我ながらに可愛いげがないなと自覚しつつも、なんだか人を小馬鹿にしたように見下すような態度や雰囲気を出している目の前の男が気に食わなかった。

帰宅部でこのあとの用事はなかったが腕を組んであからさまに「不機嫌」を見せると更に相手の口角が上がる。



「お願い事はさっきの事ッス。俺と付き合ってください。……ただし、本物じゃなくて"フリ"ッスよ」
「彼女のフリ?」
「そう、女避けにちょうどいい人を探してたんス。それでここ最近ファンの子以外で誰か適任を探してましてね……それで、白川さんに白羽の矢が立ったわけ」

「……話した事もないのに」

「そうッスね。俺も興味なかったんで色々と苦労したんスけど、ファンの子に絡みにくい女子をわざわざリストアップして貰ってそこから選んだってわけ」




おい誰だそんなことしやがったやつ。


内心で悪態をつくも、友達はいるが実際この男のファンになるようなミーハーな友は居ないしアイドルとかに全く興味がなかった為、そういう話題が好きなクラスメイトとも挨拶とか用事以外に話すことはなかった。



「それをする理由は……?てか、多分だけどそれって私にメリットないよね」
「仮にもモデルと付き合ってるってステータスになるんじゃないッスかね」
「悪いけどモデルとか興味ないし、正直耳にピアスして金髪にしてるような人はあんまり好かないかな」
「うわー…かたっ苦しいッスわ」


自分の容姿を全否定されて機嫌が悪いのか、少し口元をひくつかせて笑っていた黄瀬は「そういえば…」と言葉を繋げた。



「理由ッスね。理由は………中学からの付き合いの彼女がいるから」

「……あのさ、君はなにがしたいの?それってほぼ二股に近いじゃん」

「フリだから良いんスよ。それに、彼女にも言っておいたし。色々あって、卒業するまで隠したいんスわ」

「……カモフラージュしようってわけ……」

「まあぶっちゃけた話、あんたに拒否権はないんだけどね。………例えばだけど、俺が発言するのとあんたが発言するの、どっちがより信じられると思う?どっちの方が影響力あると思うッスか?」



暗に、お前みたいな根暗の言うことなんて誰も信じねぇよ。

俺が言えば、全部みんな信じるんだから。


と馬鹿にされていることは分かっていたが、きっとこの人には何を言っても無駄なんだろうなと思って内心でため息を漏らす。



「じゃあ、私は何をすればいいの?」
「……従順な女は嫌いじゃない、ッスよ」



得意げに笑った彼が悪魔に見えたのは、わたしの気のせいではないはずだ。


20130803


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