*サン* 


「おめでとーさん。今度皆で送別会しないとな!」
「いや、まだ仕事辞めるって言ってないですよ」
「いやいや、大人しく貰われろよ。……あんなに顔も年収も性格も良い男が貰ってくれるって言うんだから大人しく貰われなさい。貰われてください、お願いします!…ね?」
「いやいやいや、しばらく考えさせてくださいよ!ねぇ!!」
「いやいやいやいや!もうそろそろ此処の部署に新しい子入れたいから!新卒のフレッシュで可愛い子!可愛い子にお茶入れて貰いたいの!」


パシパシっと机を叩いて力説する童顔、ベビーフェイスのオッサンを前に、ひくっと頬が引き攣る。


「本音そっちですよねっ!!??大丈夫!!可愛い子には既に彼氏が」
「何言ってるんですかー!俺は奥さん一筋ですしー!子供可愛いですしー!
それに、いい加減お前の彼氏さんを独身にしておくと、ハイエナに襲われないかお兄さん心配で…」

「はい!?何言って…」


上司の視線を追うように後ろへと視線を向けると、隠れる気ゼロで聞き耳立てている同僚の姿を見つけて思いっきり睨みつけた。

「お前にはやらねーよ!?」
「チッ!」
「あ!?舌打ちした!?ちょっと表出な!」

二人してギャーギャーと騒いでいると、「ほら、黙らないと書類追加するぞー」と上司の鬼畜な一言にグッと押し黙る。

こういう時に権力を振りかざすのは良くないと思います!


「とにかく、アルバフィカはあげないから」
「なんでお前の許可がいるの?」
「むしろ彼女様に無断で迫れると思うなよ!?」

さっきよりもボリュームを落として静かに言い合いをしていると、「あ、閃いた!」というように上司が顔を上げてニコニコしながら手招きをしてくる。

「ねえねえ。送別会いつが良い?」

「空気読んで???てか、いい加減パワハラで訴えるぞ、このクソ上司」
「口悪いし、ホント可愛くないわー。教育係の顔が見てみたいわー。あー俺だったわー」
「痴呆ですか?」
「あは、モラハラで訴えちゃうぞ?」


いつもの光景に、ドッと部署内で笑いが起きる。

今の上司は、新卒の頃から私と同僚の面倒を見てくれた先輩だ。
歳も近いから、飲みがてら何かと相談にも乗ってくれた。
そのせいで、私はお酒が大好きになった。

こっちも上司が結婚する時には、プロポーズサプライズを部署内の同僚と全力でやった。
結婚式も呼ばれたし、それでも全力で出し物をやった。


おかげで完全に女子扱いされなくなったけれど。


でも、どちらかと言えば男の割合が多いのに、男女関係なく打ち解けてスムーズに仕事出来るのはこの人のおかげでもある。
仕事を辞めるという事は、今の心地いい空間とサヨナラすること。


だから、迷ってしまう。















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